あなたのkugyoを埋葬する

主に読書内容の整理のためのブログです。Amazon.co.jpアソシエイト。

様相実在論者・俺、参上!

 ふうふう、『多宇宙と輪廻転生―人間原理のパラドクス』、読んだ読んだ。終末論法や眠り姫問題のところは詳しく筋をチェックしてないので、今後ノートをとりながらちまちまやるんだが、そこ以外では、とりたてて形式論理に頼ってる印象はないなー。著者は(よく勘違いされるらしいけど)論理学者ではなく哲学者なのであたりまえといえばあたりまえ。
 この本を読むにあたって必要なのは、文中で特に説明されない基礎的な哲学用語であろう。しかし、そういうのを知っていればとうぜんこの本に出てくるぐらいの論理式は軽く追えるはずなので、まえがきで「論理式や確率式はとばしてもいいよーん」って言ってるこの本がどんな読者層を想定しているのか、ちょっと気になるところではある。


 この本とは直接関係ないけど、おれは“ノートをとりながらちまちま”緻密に考えるのが好きじゃないので、哲学は趣味ていどにしかできない、つまり自分には向いてないな、と思っている。ま、緻密に考えてないのに哲学様を名乗るやつは板野サーカスばりに攻撃するぜー、って意味でもあるが。


 さ、さてさて、本題。目下最大の関心は、以前のエントリ(みゅー - kugyoを埋葬する)でも書いたように、三浦俊彦がいかにして様相実在論の立場を人間原理を用いて破棄したのか、なのであった。そこで、該当する彼の議論を引用してみよう。

 しかし、様相実在論は正しくないだろうということが、本書の論述から導かれる。SSAとグルジエフの原理をよく考えてみれば、可能世界がすべて実在するということはありえないのである。なぜだろうか。
 可能世界の中には、すべての宇宙に知的生命がぎっしり詰まっているような、膨大な知的生命の住む可能世界がある。原子の一つ一つが高度な自覚を持って哲学的思索に耽っているような可能世界もあろう。そうした可能世界に住む知的生命は、全可能世界の知的生命のうち、圧倒的多数を占める。様相実在論が正しいならば、私たちがそうした可能世界の中の宇宙に住んでいる確率はほぼ1である。ところが観測事実は、私たちの宇宙には知的生命がきわめて稀であることを示している。宇宙の地平線までの範囲内に、もしかしたら地球以外に知的生命はいないかもしれないほどなのだ。
 したがって私たちは、すべての宇宙に知的生命がぎっしり混みあっている可能世界に住んではいないことがわかる。そうした可能世界が物理的にあるならば、SSAにより、私たちはそこにいなければならない。よって、そうした可能世界は物理的には存在するはずがない。様相実在論は偽なのである。


三浦俊彦, 2007, 『多宇宙と輪廻転生』(青土社)pp.343-344.

 うーん、なんてこった! こりゃあ、この本がなくったって、さっさと思いついていてしかるべき議論だ。おれってやっぱりバカだねー。と、読んだ当初は思ったのだが、ぉおいっ、ちょっ待てい!
 様相実在論において、実在する可能世界は実数よりも確実に多い(このことは三浦も認めている。三浦2007, p347)。つまり、無限個ある(非可算無限)。さて、膨大な知的生命の住む超・豊穣な可能世界も、とうぜん無限個ある。また、我々の住むこの宇宙を含んだ可能世界のように、知的生命が稀な可能世界も、やはり無限個ある。となると、超・豊穣な可能世界と希薄な可能世界とのあいだで、1対1対応がつけられてしまうのだ。これはもちろん、超・豊穣な可能世界に住む知的生命と、希薄な可能世界に住む知的生命とのあいだでも同様である。それだから、「私たちがそうした可能世界の中の宇宙に住んでいる確率はほぼ1である」と結論づけることはできない。無限個のなかからの選択について、通常の土俵で確率の議論をすることはできないはずだ。
 ……あれ、いや、超々・豊穣な可能世界には無限個の知的生命がいる、とすればいいのか? たしかに無限個の知的生命が暮らす(そんな宇宙を含む)可能世界は無限個存在するはずだ。とするとやはり、希薄な(有限個の知的生命しか住まない)可能世界に住む知的生命と、超々・豊穣な可能世界に住む知的生命とには、1対1対応はつけられなくなるかもしれない。そうなのか? そんなんで非可算無限の集合より濃いもんを作れるんだったっけ? アレフ2の集合を作るには、たとえばベキ集合をとればいいわけだが……ああ、理系なのに無限が怖くてさわれない。っていうか実数の濃度ってアレフ1じゃなくてアレフ2とするのが優勢なの? 数学こえー……。
 と、とりあえず、三浦センセの引用部分そのままでは、様相実在論を破棄するわけにはいきませんよね、とだけ。あした直接きいてこよーっと。


 なお、引用部分の直後にある、グルジエフの原理(あ、これは三浦の造語ね)からの証明も、同様に疑わしいようだが、そうでもないかもしれない。確認してみよう。