あなたのkugyoを埋葬する

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虚構キャラクタに対する罪 はじめに

 「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」 *1に関連した、いわゆる児ポ法問題が、最近話題を呼んでいる。
 この法律の目的は、次のように示されている。

第一条  この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。

 この目的に関連して、「被害者のいない子どもポルノ」をもこの法律(あるいは別の法律)で規制すべきか、という問題がある。「被害者のいない子どもポルノ」とは、たとえばマンガ・アニメに見られるような、その作成過程においては子どもが関わっていないようなポルノ作品のことだと理解しておく。こうした子どもポルノも、「子ども自身が実際にこのようなポルノ画像を目にすることで被害に遭っている」という観点から、実際には被害者を作っているのではないか、というのが、規制派の一部*2の主張だ。
 以上のような問題を扱う議論はさまざまあるが、そのなかで、「被害者のいない子どもポルノ」などそもそもありえるのか、という疑問が提示されることがある。たとえばあるマンガのなかで殺害された人間がいるとしよう*3。すると、たしかにこの現実世界ではその殺害は起こっていないけれども、そのマンガのなか(虚構世界)では人間がひとり殺されているではないか、つまり被害者がいるではないか、というのである。
 しかし、そうだとして、虚構世界での殺人被害者に、現実世界のわれわれが責任を負うべきだ、罪悪感を抱くべきだ、となると、この議論はにわかには受け入れがたい。「被害者」というのはあくまで「現実世界での被害者」という意味であって、「虚構世界での被害者」など問題ではない、というわけだ。しかし、もし「被害者」に虚構世界の住人をも含めるとすれば、規制派は一貫した論理でポルノマンガを規制できることになるから、それはそれで都合がよかろう。そこで、虚構世界での不道徳行為(不法行為を含む)に、現実世界のわれわれが責任を負うべきか、という問いを、この勉強会で検討しよう。


 この勉強会は以下のように構成されている。
 第1節 虚構キャラクタに責任を負うべきか:第1項から第7項まであり、各項で以下のような問いについて考察する。
(1)「虚構世界で起きたことは、われわれの行動を原因とするのだろうか?」
(2)「虚構世界で起きることに影響を及ぼせば、われわれは道徳的責任を果たせるのではないか?」
(3)「虚構世界で起きることに、われわれは影響を及ぼせるのか?」
(4)「虚構キャラクタには権利があるのだろうか?」
(5)「われわれは他者に権利を認めてよいか?」
(6)「どうすれば虚構キャラクタに対する責任を果たすことができるのだろうか?」
(7)「道徳について議論ができるか?」
 なお、この順序について、ひとこと注記しておく。見てわかるとおり、議論の進みかたは、「この問題の答えはこうじゃね?」→「いや、そもそも前提がおかしくね?」→「あ、その問題にはこう答えればよくね?」という形になっている。たとえば(2)と(3)。これは、ふつうあまりよい議論の進め方ではなくて、むしろ私の思考の進め方に沿ったものになっている。だから、この勉強会の出席者やレジュメの閲覧者から、考察の前提にかかわる質問があった場合、「それは第n項で触れます」という返答のしかたが多くなるかもしれない。
 このような進行にした理由はひとつで、そのほうがスリリングだからだ。キングのデュエルは、エンターテイメントでなければならない!
 それから、用語法についても。第6項のはじめでまた触れるが、この勉強会での「罪」とか「責任」とか「虚構」とか「キャラクタ」とかいう言葉は、すべて最小限の意味、薄められた意味にとってもらいたい。定義が必要なら安物の辞書をひいていただければよい。


(ちなみに、2008年4月27日に行われたじっさいの勉強会レジュメでは、第2節と第3節とに、シミュレーション・アーギュメントの紹介と論駁とを入れておいた。しかし、このブログをちょっと読めば、その論駁の手順はすぐわかるだろうから、省いておく。「しまった - kugyoを埋葬する」参照。
シミュレーション・アーギュメントについては公式サイトhttp://www.simulation-argument.com/を参照。)


 それでは、虚構を分析する哲学の世界へ入っていこう。 あと、記事タイトル欄が足りないので、以降この勉強会を単に「きょキャ」と呼ぶ(勉強会当時は「きょキャ〜シュ」だった)。

*1:法令データ提供システムより。http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html

*2:たとえばここを参照。日本ユニセフ協会・特集 子どもポルノから子どもを守るために

*3:殺人の代わりに強姦でもいいんですが、レジュメ書いててふしぎな気持ちになってくるので、ここからは殺人とさせてください。すみません。