あなたのkugyoを埋葬する

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「白鳳通信 第35号」

第8回 文学フリマで買った同人本の紹介です。

  • C-21 白鳳企画:「白鳳通信 第35号」(\0)

 そのブースに並んでいたもののうち、ファンタジーでない小説が収録されているのがこれだけだったように見えたので、めくってみて、競馬を背景にしているとのことだったので、入手しました。
 私は、ファンタジーとか、猫の出てくる小説とか、恋愛小説とか、小学生や中学生や高校生や大学生が語り手の小説とか、そういった小説には、あまり興味をひかれません。上記のような小説は、うまく書くのが非常に難しい(それぞれ技術的な難関がある)のにみんな書きたがるので、ほとんどがへたなのです。


 「白鳳通信 第35号」に収録されているのは、サークル白鳳企画さんの発行作品情報と、「PART. 0 近況報告」(小笠原智弘さんの近況)と「PART. 1 今後の発行予定」と「PART. 2 小笠原智弘の読書日記」と「PART. 3 日曜日は二日酔い」とです。「PART. 2 小笠原智弘の読書日記」では、不知火京介『マッチメイク』が取り上げられていました。乱歩賞はエンターテイメントが多いですよね、選考委員見るとさもありなんという感じ。それにしても、藤原伊織 『テロリストのパラソル』とか首藤瓜於『脳男』とかがとったのはずいぶん昔のように思っていましたが、そうでもないんですねえ。


 さて、収録作品「日曜日は二日酔い ―第74回日本ダービー―」を読みました。「狩野大輔」が二日酔いのため居座ってしまった「和田文香」とともに自宅アパートにこもる話でした。
 こもる、というか、「大輔」は何度か自宅アパートを出ます。目を覚まし、「文香」が自宅で寝ているのを発見したあと、「大輔」は1人でコンビニへ行きます。帰ってくると「文香」はベーコンを焼いています。

「材料もあるのに買いに行かなくてもいいの。本当に男ってずぼらなんだから」

 気分が悪いため朝食もとれずにまた眠った「大輔」は、「文香」の寝言を聞いてしまい(「だからわたしには大輔がいるって何度言ったら分かるの。だからあんたなんか嫌なのに……」)、1人で馬券を買いに行くことになります。
 「大輔」が帰ってくると「文香」はまだ家におり、ダービーの番組を見ています。そのあと、ダービーが行われ、「文香」が「大輔」に買わせた牝馬が勝つのですが、さて、「文香」はどうしてたびたび「大輔」が外出したにもかかわらず「大輔」の家に居座っているのでしょうか。
 「大輔」の解釈に寄り添うならば(「すっかり関係の近くなった<恋人>に対して、大輔は心の中で語りかけているのだった」)、前述の「文香」の寝言を真に受けるべきなのだと思います。なんでこんなことを気にしているのかというと、この小説って、ロマンチック・ラヴ小説がわりと気を使うはずの、恋愛関係に入るための承認の儀式が非常になおざりにされていて、そこがおもしろいなあ、と思っているからです。
 つねづね考えるのですが、「AはBと結婚している」とか「AはBを知っている」というような関係と違って、「AはBと恋愛している」とか「AはBと友人である」というような関係は、その項(AとBと)どうしが互いにその関係にあると信じていないと成り立たないように思います。だから、「大輔」が「文香」の「恋人」となる場合には、「文香」も「大輔」の「恋人」となっているはずなのですが、「文香」の行動を見ると、牝馬ウォッカ」のダービー制覇のゆくえや、今夜の(「大輔」が奢ることになる)飲みのことや、競馬のこと(「とにかく競馬の事を教えてね。」)やに関心があるようで、「すっかり関係の深くなった<恋人>」へと関係が変化したことについては、ほとんど衝撃を受けていないように思えるのです。一連の事態への受け止めかたが「大輔」と異なるのは、それが男女の違いなのだ、などというように捉えるひともいるかもしれませんが、ともかく、恋愛小説の後半で関心が競馬に向きっぱなし、恋愛についての問題も競馬に回収されてしまう、というのが、とても興味深く読める小説でした。

 文香の本心が知りたいとかそういう考えは無かった。
 ただダービーに勝つ牝馬が見てみたかった。

 「<恋人>」。そういえば、この作品では、ヤマカッコはダービーの実況のほか、次のように使われています。

 すぐに疑ったのは自分が<やってしまった事>だった。
 幾らお互い二十歳は過ぎたとはいえ、不同意で行為に及んでは当然警察の厄介になる。

「ああ。お前も競馬やるのか?」
「別に。興味無いわ」
 <本当は深い意味があるのだけれど大輔には言いたくない>と言外に言い切って、文香はスポーツ新聞とおにぎりなどをテーブルの下に落としてしまった。

 文香の前にはウオッカ単勝
 大輔の前にはフサイチホウオー単勝
 これで<勝負>の準備は整った。

 画面で見る限り<気合が乗っている>というより<乗り過ぎている>ように見えたからである。
 汗までかいてやがる。もしかすると落ち着いてないのか。頼むぞ、アンカツ。俺はお前に賭けてるんだ。夕飯を奢る羽目になんか……ってそれはどうでもいいか。

 たぶん、カギカッコをせりふ以外に使わないようにしているんだと思うのですが。



 こちらが同人のサイトだそうです。
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