「鉄錆風味歪夢 <猟奇編>」
第8回 文学フリマで買った同人本の紹介です。
- *the long fish*:「鉄錆風味歪夢 <猟奇編>」(\300)
猟奇編には、実話怪談に味わいが近いもの、すなわち恐怖や残酷さが強く感じられる作品を主に集めた。
そうで、16編の短編が入っています。
現行の出版業界を考えると、ショートショートに近いものをたくさん書いて量で勝負する作家というのは世に出にくい。もちろん、そういうのこそウェブに向いてるんだけど、なかなか金銭をとれないわけで、フリマに出店というのは自然な選択肢だと思います。
収録作品は以下。
- ビビブブゥン
- おやすみはおしまい
- 闇に転げる
- ピアス病
- 邪眼
- 暗闇バス
- 就寝時前に服用のこと
- 床地図
- 水難の夢
- 小さな扉
- 無名墓碑銘
- 灰を吐く
- 押入一人
- みえない
- 残夢
- 心の秘密
最後の「心の秘密」によく出ていますけど、簡潔にしてじゅうぶんな描写力が優れていますね。この手の作品はごくふつうの、むしろ明るい日常を細やかに描けてこそ、その落差で「恐怖や残酷さ」を際立たせることができるので、ここは非常に重要です。たいていの場合、怖いもののほうはなるべく書かないで済ませるほうがよいのです、書きすぎるとギャグになっちゃうので。
「おやすみはおしまい」が、ブッツアーティ「なにかが起こった」 Qualcosa era successoを思い起こさせますが、これも筆者の軽やかな描写力に頼った終わりかたで、ブッツアーティの寂寥感に対抗していると思います。ほか、「ビビブブゥン」は巻頭に来るにふさわしいテイストだし、「暗闇バス」「就寝時前に服用のこと」「小さな扉」も小説らしくていいですね。安心して読める同人誌。