あなたのkugyoを埋葬する

主に読書内容の整理のためのブログです。Amazon.co.jpアソシエイト。

購入全誌感想(12評/12購入)


 第18回文学フリマに買いものに行き,以下の13冊(1つはセット購入)を購入しました.


http://instagram.com/p/nnkujuhKZU/


いつもどおり,24時間ですべての作品の感想を書きました.

E49 一番合戦,*一番合戦 ロボットと少女*(¥100)

E49 一番合戦,*一番合戦 ロボットと少女*(¥100)の収録は,

  • 大雲,"I'll be back"
  • 木島冴子,"月下の人々"
  • "あとがき".

 "I'll be back"は中学生の語り手の恋人「時生」が事件に巻き込まれ,形見に「時生」そっくりのロボットをよこす話.語り手しか知らないとされる,ロボットのパスコードが物語を引っ張る.語り手が事件に巻き込まれていなくなった父母や「時生」,その他の人々のことをあまり積極的に探しに出向かないのが気になった.物語の都合上,語り手はだれかが帰ってくるのを待つ,という位置にいないといけないんだろうけど,剣道をたしなむ15歳(無鉄砲な年齢だ)って設定とかみ合わない. ただこの点は続編でフィーチャされている.
 木島,"月下の人々"では,探す側・探される側はさらに錯綜してる.冒頭ではロボットが探される側.中盤では「皐月」を探す「葉月」が「おわれてる」というメールを残す. 「東京シティドーム」とその外の「月射線」との設定は面白いので(この設定を「皐月」がメールで初めて知ったというのがよくわからないが),章題にもなっているし(「プロローグ」「第一話 新月」……「第四話 満月」)つづきも読んでみたいところ.
 大雲,"I'll be back"より,はっとした部分を引用.

 近所を歩くと、どこにでも時生の思い出があった。二人で探検して、迷子になった森。放課後必ずたちよった駄菓子屋さん。怖い犬がいる場所はあたしがかばってやって、お寺の裏の池にいるおたまじゃくしを見つけたのは時生だった。
 食器棚には、時雄のお茶碗とお箸がまだはいってて、道場の床には転んでへこんだ板がまだ残ってる。

E49 一番合戦,*一番合戦 ロボットと少女 REVENGE編*(¥50)

E49 一番合戦,*一番合戦 ロボットと少女 REVENGE編*(¥50).秋に出た前号の続編を収めてて,

  • 大雲,"サムライ・ガール"
  • 木島,"月下の人々(後編)"
  • "あとがき"

を収録.
 "サムライ・ガール"は前作の2年後の話.今度は語り手が「時生」を探す努力をする.前作ではお題目っぽかった,自分のいまやるべきことを見据える,ってテーマが,「時生」の名前にからめて回収されるのはいいなと思う.「時生」との過去の思い出に,前作のパスコードの件で決着をつけ,今作で「時生」が自分とともにいなかった時間にもけりをつけた語り手だが,この語り手の名前はなんだったか? そう「完菜」だ.この名前は何を意味するか.時間に伴う「完」といえば完了の相ってわけで,ここでは語り手が,自分の行動する時点では物事の趨勢がすでに決定してしまってるという立場に置かれてることを示唆する.「完菜」はロボットの破壊を自身の突拍子もない作戦で止めたように描かれているが,問題のロボットが作中の記述どおり「ロボット三原則」に従うのだとすれば,「時生」は自壊命令を出すことで簡単に目的を達成できたはず.もしパスコードの上書きにより「時生」の命令を受け付けないのなら,ロボットは(十分な能力を持っているので)自分を守ることができ,破壊は達成されない.つまり,語り手が何もしなくても,ロボットは破壊されなかったのではという気がする.戻ってきた「時生」も(「もろもろちゃんと片づけて」の中身によるけど)語り手が望んだような状態であるかどうかの判断は読者に任されてるし,じつはこの話,語り手が無力で悲しく終わってるのかも.
 木島,"月下の人々(後編)",章題がなくなっててさびしい!下弦の月とか朧月とかを期待してた.ミステリーとしての興味は,「ロボット三原則」の処理が不満だけど,「ドール」の正体が面白いなって思う.国際立法探偵機構とか想像しちゃってた.あとこれも終わりがとても怖い. これはネタバレになるからちゃんと書けないんだけど,最後にある人物を迎えに行く人物の名前*1が繰り返しを暗示しており,同じような悲劇がまた起きるんじゃないかという気がする.

 木島,"月下の人々(後編)"より,少し引用.

 見えるとは思わないが、皐月は目を細めていた。
 月斜線の影響で虹色に揺らぐ空を、ガラス張りの建物は反射していた。

C62,鶴見大学文芸部,*葦*(¥500)

 C62,鶴見大学文芸部,*葦*(¥500).
 楓福丸,"彼女とわたくし",セリフが面白い.
 syou,"海月探索隊",すれちがった男の子がクラゲでしたっていうファンタスティックオチにもできそうな文体で楽しい.
 独路,”TUKUMO",これは銃置いてっちゃあかんだろう…….
 緑川せう,"世界に手をかけてた",これはもしかして何かの歌詞をイメージしてる? 冒頭の陶酔的な箇所と,あんまり具体性ないまま進む会話とがかみ合わなくてへんな感じ.「時間を戻せるのは今の内だけかもしれないし」っていうセリフ(あと定刻からずれる流れ星)が,このちょっと閉塞感のある物語が,外へつながる道になっているのかも.
 葉柄,"最低最悪。",うーむ冒頭作品といい露骨にミソジニスティックな作品でアンソロジーを挟むのはどうかと.あとこの内容で視覚的イメージにばかり訴えるのはへん(どうして冒頭が「俺は見た」なんだい).音,匂い,何よりも味を書くべき.
 楓福丸,"彼女とわたくし"より,好きな部分を引用(これはどうしたって,私がM@D AGEの幸田龍樹,"大都会交響楽(1)"(2007)を好いてるせいなんだけど.)

 ――「篠田さんって付き合ってるのかな……」「ちかちゃんのバイト先で……」「だから片山が……」「松山が事故って……」「篠田ってエンコウして……」「だから水島は柔道部部長で……」

B10,京都ジャンクション,*右車線*(¥500)

 B10,京都ジャンクション,*右車線*(¥500).収録作品は,大鴉 こう,"北欧つばめ";高瀬 遊,"立派な大人";濱松 哲朗,"火";安樹 茂里,"赤い大陸";智東 与志文,"その暗闇に目が慣れる";連載企画 読書『編』歴.これはむちゃんこ質が高くってうらやましいな!
 大鴉,"北欧つばめ",冒頭(北海道のペンションが東京の大学にバイト募集かける)とラストとに明らかなように幻想的な雰囲気が漂う作品.双子のくだりなんか*シャイニング*じみてるよね.ありがちな描写に見えたものが,後ろからしっかり書き込まれて説得力を持つ作りに感動した.それだけにp.48の「宇部さん」の語りが唐突? とはいえ大好きな作品です.ただ,これが母子(語り手と母親と,あるいは「稲穂」「麦穂」と「宇部さん」と)の関係を描いた作品とは私は読めなかったんだよな.「北欧つばめ」の雰囲気に飲み込まれちゃったっていうのもあるけど,なぞの「先生」や「椋木くん」が研究している生物(生物標本)って,親子関係(どうしようもなく似通ってしまう血縁としてのそれ)と噛み合わない気がするんだよね.もちろん生物にも親子関係はあるけど,それって血縁というより殖えるって言ったほうが近いと思う.そっちの密度にこそひかれてしまった.
 高瀬,"立派な大人",これもいいなー.教師にならないまま会社員になった語り手と,いまだに教師を目指している「大地」とのズレが決定的になるまでの話.語り手は教師って職業を理想としちゃいないけど蔑んでるわけでもない,この絶妙な距離が描かれてる.終盤の「大地」の鬱陶しさは少し伏線が欲しいかも.こういう性格のやつだっていうのがさりげなくわかるところがあったらいいなあと.
 濱松,"火",「一度にあらゆるものが変わってしまうことを怖れていたのかもしれない」みたいな文が入るのがセンスいいなって思う(少し硬いのかもしれないけどこれぐらいの硬さが私には心地いい).「火」のイメージが,身体を溶かす溶鉱炉,過去の火種,教え子の火花,と変わってくのが面白い.
 安樹,"赤い大陸",これもいいなあ.マンションのある部屋を気に入ってて貸したがらない賃貸業者が語り手.ふつう純文学だと恋愛関係の終わりは苦しみとして描かれると思うんだけど,この作品では清算して自分のありかたを受け入れられてスッキリ(「赤い大陸」が消える),となってるのがいい.
 智東,"その暗闇に目が慣れる",文章が面白くって何箇所か吹き出しちゃった.早朝どころか日の出前の3時半にゴルフ場に集まって打ちっぱなしする話なんだけど(さすがにそんなアーリーバードないだろ),「お前らプロか、と思う。(プロだってこんな時間からは練習するまい)」とかツッコミ鋭いっ!
 大鴉,"北欧つばめ"より,はっとした部分を引用.

 夕方、ラベルを切り分けていると、どこかから歌が聞こえてきた。


   お腹の体操始めましょう
   ママママママママ、マママママ


 それから、また、


   お腹の体操始めましょう
   ママママママママ、マママママ


 繰り返すたび、音程が上がっていく。きっと二人に違いない。


 

エ61,エディション・プヒプヒ,*ボルヘス推理小説*(¥800)

 エ61,エディション・プヒプヒ,*ボルヘス推理小説*(¥800)は2011年の既刊で,ボルヘス推理小説を書評した記事の翻訳集.ほめてるのもけなしてるのもあるけどどれも面白い.

エ70,ソシオグラフィ研究会,*Config.* vol2(¥800)

 エ70,ソシオグラフィ研究会,*Config.* vol2(¥800)は2011年の既刊で,「特集 火星」に惹かれて購入.巻頭の4象限マップの強引さが好き.

エ33,廃墟探索部,*フェルクリンゲン製鉄所*(¥1000)

 エ33,廃墟探索部,*フェルクリンゲン製鉄所*(¥1000)は,世界遺産に登録されてる旧製鉄所の写真集.雰囲気ある廃墟をA4判で見られて楽しい.けっこうな枚数がチルトシフトふう(ミニチュアっぽく見えるやつ)にしてあるのはなんか理由あるのかな? 私の趣味だけど,廃墟は大きければ大きいほどノスタルジー喚起されるんだよね.

エ28,未遂のスパンコール,*しゅんでます。*(\500)

エ28,未遂のスパンコール,*しゅんでます。*(¥500),11の同人サークルにアンケートして,働きながら時間ねん出する方法を教えてもらった本.ゲームの2次創作してるサークルは執筆前の確認プレイに時間食われるらしく大変そう.「ジャニヲタは時間が無くても出来る」(写真でも幸せだから)なるほど!

カ18,早稲田大学現代文学会,*Libreri* No.20(¥800,前号とセット売り)

 カ18,早稲田大学現代文学会,*Libreri* No.20(¥800,前号とセット売り),どれも,ああ好きな小説があってそれを読むためにがんばってる,私とは違っていいなあ(私は憎しみでしか批評を書けない*2)と思った.
 佐藤正尚,"愛と無感覚――ミシェル・ウェルベックについて"に少しコメント.(なんでかっていうと私が買いにいったときブースにいらした佐藤さんが自負を語ってくれたので.)この論考,ごまかしてるつもりはないんだろうけど,主張したと言われてることが当該箇所でぜんぜん主張されてないので,思いっきり寛容の原理使わないと筋が追えない.ひどいときは文のレベルでおかしい.この論考で大事なのはペルニオーラの議論を紹介した箇所だが,その箇所は「人と事物が産業資本主義社会において区別されていない」ことも「オルガズムとセクシュアリティの関係が絶対的である」こともまるで示してない.理由は簡単で,その説明箇所には「資本主義社会」も「オルガズム」も語として出てこないからだ(引用文にしか出てこないが,引用文は論証の根拠であって論証の一部にはならない).もとのペルニオーラの議論には出てくるのかもしれないけど,だったらそれをちゃんと書くべき.書いてないことを明示的に論証することは原理的にできないので,読者としてはその箇所が当該の議論を暗示してるんだろうな(しかしどうやって?)って推測するしかない.これがほとんど1パラグラフおきに現れるとなると,独立した論考というよりアイデアメモを解読してる感じになってしまう.
 ただ,最後のところでウェルベック作品中の記述に話を戻すというのはいいなと思う.これは今までの議論(ウェルベックは自己反省がない)に対する裏切り(ある)の読み込みになるので.著者が認めているとおり,それがうまく読み出せてるかというと疑問だけど,「時間の真ん中」の解釈は納得!
 同じ佐藤の論考でいうと,2013年4月号のほうに載っていた“強く孤独であること――井坂洋子論”のほうはもっと慎重だし,詩が書き文字であることにも気配りがきいていてよかった(「ハクメイ」「ハタ」のところ).

E07,カリベユウキ,*黒い神*(¥200)

 E07,カリベユウキ,*黒い神*(¥200),むっちゃむちゃ面白かった!不定期に漂着するゾンビを狩る街で,謎の「獣」の痕跡を見い出した「清掃員」の「ノリコ」の行動を軸に,「獣」の正体で引っ張りながらテンポよく山場を挟むストーリー.そしてカタストロフィを予感させるすっきりしたラスト.ゾンビの始末(ゾンビが始末された場所をきれいにする)を清掃員がするっていうネタ自体も,「ノリコ」が清掃員であることが終盤でもう1回効いてくるところも感動.謎の回収と登場との手さばきも高レベルだし(「灰色のピエロ」が出てくるところとかグワーッて叫んじゃったよ!),幻覚を起こす「ジャックポット」(当たりが出るとナイスな景色が見られる)の処理も格好いい.
 ちょっと人称その他の揺れがあるのと,街の中心部にある施設の存在感が薄いのが気になった.あとこのひとたちはなんで日本語の名字+名前を持っているんだろう.
 はっとした箇所を引用.

 夕刻、人が街に出始めた頃を見計らって、もう一度試した。今度は地図を見なかった。右手を前に掲げ、左手を横に突き出し、そして虐殺について考えながら歩いた。
 絵のなかに描かれた最初の彼女を目指し、ただ一心にそのことだけを願って、彼女のように、彼女みたいに、彼女そのもののように、ノリコは歩いた。

この箇所のタメが,いい緊張感を作ってくれるんだよねー.すてき.

イ62,絶対移動中,*絶対移動中*,vol. 15(¥600)

 イ62,絶対移動中,*絶対移動中*,vol. 15(¥600),特集は「猫」(猫とにんげん)ということで同テーマの作品(小説,エッセイなど)が17本入っている.
 唯一の論考である志方尊志,"猫の消失―『吾輩は猫である』の語り"に基づき,猫=カメラアイ説をとるなら,最右翼の作品は,伊藤鳥子,"ボスとおっさん"ということになるだろう.定年退職した「虎次郎」は,飼い始めた猫「ボス」と触れ合ううち,そのことを絵に描くようになる.前の箇所で文章としてつづられたできごとが絵として別様に立ち上がるのも見事だけど,いちばん戦慄するのは,この話のラスト,「虎次郎」の絵のなかで「ボス」が3匹になっているところだろう.視点としての猫は過去のできごとの語り直しだけでなく,3つに分裂して視点の複数化(p. 85に顕著なとおり,突然「ボス」の内面が描かれるように見える)を具現化するのだ.
 ほか,伊藤なむあひ,"おはなしは夜にだけ"が好き.文学フリマ24(24時間以内にすべての作品の感想を書く)をやってると,やっぱり時間は気になりますものね.

イ62,伊藤鳥子,*迷探偵最初の事件*(¥400)

 イ62,伊藤鳥子,*迷探偵最初の事件*(¥400),短編が4つ収録されている.最初の表題作と最後の"テンケーカイ"とで,高いところ(観覧車のゴンドラの頂点,「変な形の塔の先」)に真実がある,という図式が繰り返されることを加味すると,間の2編にも同じ図式を読み出したくなるところ."ある夜の東京タワー"で,語り手が東京タワー(高い!)と間違えてしまう「セイタカアカガニ」は,「仕事に行く途中」だ.この仕事とは何か? それは,その次の"さよならガリレオ"で唐突に明らかになる真実,そう「ガリレオ」の居場所を,探すことに違いない.これは「コウ」や「セイタカアカガニ」といった迷探偵たちの,それぞれの最初の事件かも.もしかすると,"テンケーカイ"に出てくる「三角と丸をいくつもくっ付けた形の変な塔」とは,「通天閣」のことなのかもしれない.

*1:KIZAKI KAZUKI という,繰り返しに聞こえる名前.

*2:ウソ.1にイツクシミ,2にニクシミ,3・4がなくて5にイツクシミ