あなたのkugyoを埋葬する

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カ28 幻視社,*幻視社 第八号*(¥600)

第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で7日め.
私が文学フリマで買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(29評/30購入) - kugyoを埋葬する

カ28 幻視社,幻視社 第八号(¥600)

幻視社 [第十九回文学フリマ・評論|ファンタジー・幻想文学・怪奇文学] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 プロ活動中のライタや批評家陣による豪華な(そして信じがたいほど安価な——文フリ価格かしら,値下げしましたよね?)同人本.毎度ありがたく拝読しております.
 今回の特集は2つ.1つは「フィクションのエル・ドラード」叢書をはじめとしたいくつかの水声社の本の紹介で,私がラテンアメリカ文学でもいっとう好きなコルタサル作品のほか,どの作品も熱のこもったレビューになっていてうれしい.できればもう少し作品じたいの仕掛けを読みほぐしていくネタバレ的要素がほしいところだが,この陣営にそこまで頼んだら値段がはねあがってしまうだろう.ここから先はご自身の目で,といったところか.
 ブースでもたしかフィーチャされていた,岡和田晃による“ジュノ・ディアス,『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』を味わう”は卓上ゲームに造詣の深い岡和田ならではの熱のこもった解説が誌上に再現されていて楽しいのだが,岡和田じしんが注意喚起し批判している(p. 51)とおりの「自閉的なオタク小説として」の読みが生き残ってしまう感じがするのが気になった.作中のたくさんの小ネタが単なる思わせぶりではなく,当時の卓上ゲームについての感覚と作中の事態とを照応させる形で入っている,ということじたいは非常におもしろいのだけど,では作品全体のなかでそういう投入はどういう機能を果たしているのかも知りたいじゃないか.
 もう1つの特集「中村うさぎ特集」は,どうしても中村うさぎという「自己分析の言葉に長けている」(p. 88)特異な人物への理解という形に陥りがちなのだけど,*極道くん漫遊記* シリーズのレビューはそこにとどまっておらずおもしろい.(私個人としては,中村うさぎがそれほど自己分析の言葉に小説家として長けているとは思わないのだけどね.まだ名指されていなかった感覚をうまいこと言い当てた先行サブカルチャ作品を探し当てるのがじょうずだというより,先行サブカルチャ作品のばくぜんとしたイメージだけを利用しているという感じがする)
 ほか,小説では,佐伯僚,“とかげの体温”がとても好き.ちょっと愛について甘ったるい感情を抱きすぎではという気もするが,それでいて「僕」が過剰にヒロイックにならないところがおもしろい.