あなたのkugyoを埋葬する

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A26 生え際,生え際(¥0)

第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で10日め.
私が文学フリマで買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(29評/30購入) - kugyoを埋葬する

A26 生え際,*生え際*(¥0)

生え際 [第十九回文学フリマ・小説|純文学] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 詩・評論・小説を収録した総合文芸誌.こういうのを手にとって読むのが文学フリマの楽しみだと個人的には思う.
 小説は,田越直裕,“雨の日の次の日”が好き.ぼーっと読んでいるとうっかり読み飛ばしてしまいそうだけど,この落ち着いた語り口の裏側では,登場人物「sgt」も「ik」もおそらく小学生であるかもしれないという事実が隠されている.「sgt」の幼いころの回想などもあり,語りの時点がいつなのか明確にはわからないのだけど,「ik」の大人びた語りも含めてせりふをト書きふうにして実際の発話(物語内の発話)から切り離してあることからして,わざとそこがあいまいにしてあるのは明らかだろう.昆虫(トンボ)やカナヘビといった小生物への着目があるいっぽうで,現在の「sgt」は車を運転するなどもしており,「ik」の父親であるようにも読める.福永信を思い起こさせる(私が好きな作家なだけですが)語りのマジックが楽しく,再読必至のよい作品でした.
 評論は清水智史,“煥発——阿部和重小論”を収録.*シンセミア*(2004)からのいわゆる「トリロジー」を扱うもの.小説一般についての第1節は1文ずつが短すぎてちょっと野暮ったいのと,昨今の優れた芸術性から物語性が失われているというかなり怪しい認識(たぶんむかしのポストモダン文学の一部を重大視しすぎている.他のメディアだとむちゃなほど重厚な物語は,現代も今後も変わらず文学のトレンドじゃないのかな)が目につくのとがあってちょっと苦しい.あと,せっかく聴覚や嗅覚といった「劣等感覚」に着目したのであれば,「赤」とか「熱い光」とかいった視覚的比喩を批評の重要なイメージとして持ち込むのは説得力を減じると思う.
 ほか,はっくにゃん,“ある種の不完全性のためのかぎりある種”,石坂優人,“宴もたけなわ”を収録.
 田越,“雨の日の次の日”より,はっとした箇所を引用.

 なにに惹かれて——塗料の白色を、日が差しこむ水面の反射に見間違えて、その光に惹かれて——水だと信じたのか。脇目も振らずその偽の水面へと飛び、その光のなかで、白い鉄板を掻き上げるようにつついた先端は触感を——ボンネットの高熱と強硬による拒絶に、とがった柔らかな腹の先が、ちゅん、と火傷した肉のように縮み、破られて傷むことはなかったのか——疑わなかったのか。

どことなく歌曲のように、浮かんだ疑問をあとから追いかける問い・答えが、のんべんだらりとなりがちな単線的な黙考記述のわきで走っている複線的雑念をうまく捉えている.まねしたい!