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カ65 ヱクリヲ,ヱクリヲ vol.1(¥500)

第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で18日め(時間操作ずみ).
私が文学フリマで買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(29評/30購入) - kugyoを埋葬する

カ65 ヱクリヲ,ヱクリヲ vol.1(¥500)

スピラレ/ヱクリヲ [第十九回文学フリマ・評論|その他] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 レオスカラックス特集ということで,フランスの映画監督レオス・カラックスの盟友・堀越謙三へのインタビューや,カラックス自身の手による映画評の翻訳があり,価値の高い本.
 カラックス作品は,*TOKYO* (2008)というオムニバスに収録されている短編しか見たことがなかったのだけど,カラックスを映画史上に位置づけるうえで参照される「ヌーヴェル・ヴァーグ」について論じた,山下覚,“ヌーヴェル・ヴァーグとカラックス ——あるいは「六○年代」と「九○年代」の距離”は非常に勉強になった.カラックスとゴダールとの類似項としてよく「ボーイ・ミーツ・ガール」という類型が取りざたされるけれども,カラックスの最初の作品が *ボーイ・ミーツ・ガール*(1983)というタイトルを持っていることからしても,この類型にカラックスが自覚的であることは,批評家の言を待つまでもなく明らかだ.山下論考では,むしろ,「ボーイ・ミーツ・ガール」の不成立や,もっと具体的な映像・演出の面に着目すべきなのでは,と主張し,楽曲演出の使いかたについて言語化してくれる.楽曲演出というものは,映画を見ているあいだはまずその存在じたいになかなか気づけないものだし,気づいたとしてもうまく言語化して記憶し,作品の外に持ち出して比較する,というのが難しいものなので,こういう作業はありがたいものだ.
 特集の組版デザインは,それ自体で映画のパンフレットを思わせる質の高いものなのだけど,その反動か,特集外の論考のほうはかなり読みづらかった(縦中横とかの基本的なレベルで壊れている).映像作品を扱った論考が多く,*Free!* (2013), *交響詩篇エウレカセブン* (2005),*けいおん!*(2009)など,扱っている作品は魅力的なのだけど,批評に際して統一的な視点を提示できておらず,あるときは映像に虫眼鏡的に着目したり,あるときは地理学者エドワード・レルフの言い分を引いてみたりしていて,場当たり的な感じが否めない.とはいえ,そうした習作のようなものが読めるというのは,それはそれで同人本を読む楽しみでもある.たとえば,メフィスト賞で寸評だけに終わって世に出ない作品を見かけて,期待をあおられたのにそれが読めないということがたまらなくくやしいってことあるじゃないですか.そういうのが手元で読めるというのはよろこび.