あなたのkugyoを埋葬する

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ウ30 かなめ珈琲会,包丁研ぎます(¥0)

第21回文学フリマ感想 Advent Calendar 2015 - Adventar,はじめました.この記事で4日め.
私が第21回文学フリマ東京で買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(23評/23冊) - kugyoを埋葬する

ウ30 かなめ珈琲会,包丁研ぎます(¥0)

かなめ珈琲会 [第二十一回文学フリマ東京・小説|短編・掌編・ショートショート] - 文学フリマWebカタログ+エントリー
[R-18] 【文学フリマ】「包丁研ぎます」/「中町 日名子」の小説 [pixiv]

 短編小説BLと銘打たれた無料配布本.
 大学入学とともにアパートで1人暮らしをはじめた「入谷」の部屋の向かいには,「包丁研ぎます 五○○円」と張り紙が出してある.実際に包丁を持って行ったらそこの住人に研いでもらえたのだが,住人はどうやら部屋で売春をしているらしく,夜な夜な扉を開けて客が入っていくところを見ているうちに,「入谷」は「二宮」と名乗るその住人のことが気になり出す.
 これ,設定としてうまいのは「二宮」の部屋を廊下の向かいの部屋にしなかったところだと思う.完全に真正面だと,扉を開けてのぞくのが不自然になってしまい,ドアスコープを使うことになっただろう.男から女への欲望を基調として発展してしまった文学ってジャンルがあるんですけど,そっちだと,そういう窃視を軸にお話を展開するんじゃないかと思うのだが,この作品では「入谷」はあくまでも自分の部屋の扉をそっと開けることになっている.これが,大学入学で独立生活をはじめた誇らしさ(“新しい扉を開ける”ってやつ)の描写にもなっているし,窃視とはちょっとちがうフェアさへのおずおずとした配慮の表現にもなっている.じっさい,「入谷」は「二宮」に見つめ返されることにもなる.
 あと,もう1つ無配の短歌集があって,そこに収録されている連作「となり町」の構成がよかった.思い人がとなり町(そのていどの距離)のところに行ってしまったさびしさを,乱暴なところのある動詞を並べることで際立たせている短歌なのだけど,最後のところでどうも飛行機に乗るような歌が3首つづくのね,エッと思って読んでいると「大きな犬を飼う人の瞳」とか「看板が標識が黄色」みたいにどうも人種がちがうひとのいる異国に行ったみたいになっている(この際,日本の標識も黄色いのが多いという事実はさておく),おいおいとなり町はどうしたよと思うわけですが,その直後の最後の首が「さみしくて買う温泉の素」ということで一気に帰国したことになっている,このあいだになにがあったのかは想像するしかない.ないんだけど,海外に気分転換に行っても晴れないどころか「失くし物をした気になった」のように気がかりはつのるばかり,という状況が印象的に表現されていると思う.
 前回の私の感想はこちら