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カ39 都市回遊,スーヴェニールのなかの都市(¥1000)

第21回文学フリマ感想 Advent Calendar 2015 - Adventar,はじめました.この記事で9日め.
私が第21回文学フリマ東京で買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(23評/23冊) - kugyoを埋葬する

カ39 都市回遊,スーヴェニールのなかの都市(¥1000)

都市回遊 [第二十一回文学フリマ東京・評論|建築] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 観光名所のミニチュアを,液体のつまったガラス球に閉じ込めたおみやげ品,スノーグローブ.旅先の記憶を思い返すよすがとなるこうしたスーヴェニールは,都市それじたいの抽象化・自己表象となっており,それじたい研究しがいのあるものです.
 この同人本はそんなスノーグローブなどの建築スーヴェニールを,フルカラー写真で紹介してくれるすぐれた資料本です.同人の稲益裕太・小粼晶子のおふたりは都市を専門に研究した経歴を持っており,論考も複数出版されているとのこと.
 言われてみればスノーグローブは,小さい空間にその都市の名所を詰めこむことが多く,地理関係を無視して都市を圧縮するという面があります.その結果,建築としては1つのセットになるものとして作られているものが,圧縮の過程で一部を切り捨てられてしまったり,また逆に,切り捨てられてしかるべきと思われるものが,意外にも忠実に再現されていたりと,都市表象において現地ではなにが重視されているのかが浮き彫りになってくるわけですね.前者の例はp. 13のイタリアはヴェネツィアサン・マルコ広場のミニチュア,後者の例はp. 53の長崎の軍艦島のミニチュアでしょうか.また,p. 39のベルギーはブリュッセルのアトミウムのように,建築そのものが極度に抽象化された構造を模している(鉄の分子構造模型に似せている)せいで,ミニチュアもそのほぼ完全なコピーになっており,来歴を知らなければ別のものに見えてしまう,というおもしろいものもあります.東武ワールドスクエアのミニチュアとかもあったらたぶんこういうことになるだろうな.
 ミニチュアから得られる視点のひとつに,全体像を把握できる鳥瞰的視点があります.建築というのはときとして巨大で,人間の視点からでは全体を鑑賞できないことがあるので,こうした視点は役立ちます.私がはっとしたのは,p. 41に紹介されているベルリンのユダヤ博物館のミニチュア・マグネットで,これは「建築自体が強烈なメッセージ性をもっている」にもかかわらず入館者にはそれがわからないため,ミニチュアとして全体を見てとれることが鑑賞に必須の要件となっているわけです.
 正誤表が入っているなど書き手の誠実さも感じられ,読んでいてとても楽しい本でした.通販もしてくださるそうなので,下記ページから入手されてはいかが?

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