あなたのkugyoを埋葬する

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B02 京都ジャンクション,京都ジャンクション 第八作品集 横断(¥300)

第21回文学フリマ感想 Advent Calendar 2015 - Adventar,はじめました.この記事で15日め.
私が第21回文学フリマ東京で買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(23評/23冊) - kugyoを埋葬する

B02 京都ジャンクション,京都ジャンクション 第八作品集 横断(¥300)

京都ジャンクション [第二十一回文学フリマ東京・小説|純文学] - 文学フリマWebカタログ+エントリー
「第八作品集 横断」京都ジャンクション@第二十一回文学フリマ東京 - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 堅実な短編小説を毎号載せてくれる京都ジャンクションの最新号.前号までの私の感想はこちら(第5号第6号第7号).

 高瀬,“姉弟”は,父の死亡保険で2億円を手に入れてしまった姉(40歳)が弟(35歳)を過剰に世話焼く話を,姉を焦点人物として描いている.はじめのほうだと,大金があっても堅実に生活し,大きな病気の経験を機に,だらだら生活している弟(「光希」)を気にしはじめる姉(「見希」)に読者もすんなり感情移入して読んでいけるのだが,弟を結婚相談所に強引に連れていくあたりからだんだん「見希」がおかしくなってきて,「光希」が現在つきあっている大学生の家に勝手にあがりこんだりする.「光希」を焦点人物にしてプライヴェートなことがら(はじめて射精したのがいつどういう状況だったかなど)を描いている箇所はちょっとよくわかってなくて,はじめ読んだときは,もっと徹底して「見希」側で書いてあったほうが断絶を描けていいんじゃないかなと思ったんだけど,これはもしかすると,「見希」に移入して読んでいる読者までもが「見希」同様に,「光希」のプライヴェートに強引に侵入するようになった,ということなのかもしれない.
 安樹,“夜と朝の間は”も叙述がよくわからないところがあった.「新次郎」「宙太」「好」の3人が,死んだ友人「哲哉」を思いながらキャンプに行くという話なのだが,全編いちおう「宙太」が焦点人物だと思うのだけど冒頭だけは「私」が語り手になっていて,それがだれなのかわからない.もしかしたら死んだ「哲哉」がここにだけ存在するということなのかもしれない.
 大鴉,“キリンのたまご(二)”は前号のつづきで,あまり明らかでなかった「キリンのたまご」の描写が入るかわり,「サルミアッキ島」をめざす冒険譚としての側面は後ろに引いていて,それは次号に期待という感じ.エキセントリックなキャラクタの「安田さん」が育った家庭・家系が語られる5章は,世界中をめぐる旅が「安田さん」と切り離せない関係にあることが示されるので,今後の冒険をじゅうぶんに予感させるものになっている.