あなたのkugyoを埋葬する

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購入全誌感想(6評/30購入)

 みなさんこんばんは.第19回文学フリマが先日開催されましたので,いくつか感想を書きました.
 私の買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(29評/30購入) - kugyoを埋葬する

A28 京都ジャンクション,京都ジャンクション 第六作品集 夜行(¥300)

 第五号(感想)がとてもよかったので楽しみにしていた本.全体的には前号のほうが好みだけど,文の上品さは変わらず.表紙の写真もかっこよく,この質の本を300円で買うのが文学フリマのいちばんの楽しみだと私は思う.
 巻頭にある濱松,“緑の袖は振らない”がいきなりうまい……前号の“火”は全体を彩るさまざまな火のイメージにひかれて気づかなかったけど,このひと一つ一つの挿話が適度な凝りかたなんだよな.
 安樹,“コンペイトウの降る庭”,心地よい語りの途中で「亜紀」が唐突に出てきてびっくりした,そこのところはおもしろいのだけど,しかしその人物があまり魅力的でない……前号の“赤い大陸”のイメージが薄暗さの感覚を伝えて話もきれいにシメるアイデアだったのに比べると,今回のは物足りず.語り口は好きで,もっと長く読んでいたかった.
 大鴉こう,“月曜日はパスタだって言ったのに”,いいもの書くなあ.言いたいこと言えないでいる語り手の前に現れる,「足音のしない」「息が乱れ」ない「茉莉」とか,姿を見せない「お母さん」とかが演出する不穏な空気がうまい.この雰囲気のまま進んでほしかったので,p. 67の答え合わせがやや露骨すぎる感じはする.水没したワインが醸し出す「死」の匂い(まあヨモツヘグイですよね)が,タイトルの見えかたをじわじわ変え,冷や汗かきながら読み進んでいると,不意に出てくる語り手の自己分析(=もうひとつの答え合わせ),こっちは見事だと思う.小説で凡庸な大人を描くのって難しいのにね.

 大鴉,“月曜日はパスタだって言ったのに”より, 気に入った部分を引用.

 俺はワインの瓶を持ち上げ、目の前でくるくると回転させた。そして布巾を剥がし、瓶の表面をよく調べたが、やはりラベルらしいものは残っていなかった。唯一の由来に繋がる手がかりは、瓶の表面をびっしりと覆った苔だった。こんなに生えるには、一体、何年掛かるのだろう。そして、九月の湖水はどんなに冷たいだろう。そんなことを考えていた。

D23 ケシュ ハモニウム,にっぽんトワイライトばなし(¥800)

 むかしばなし×オカルトブームということで笑いが止まらない本.鶴の恩返しをコンドル化(おコンという名前になる)した“佐吉”がいちばんウケた.製本もこっていて(同人によるぜいたくな内容紹介)素敵.800円という値段は,文学フリマ価格と思うと高価だが,本屋で見たら即購入よね.これだけのこった絵本はこの値段では書店で買えない……耐久度とかに違いはありそうだけど.開くのに力がいる製本だし.

B16 田村弘子,モンパルナスの月(¥300)

 同人の3人によるリレー小説(「田村弘子」が同人の名称で,3人の作者は佳丘一穂、東夏江美,樟氷しずく).リレーというと即興セッションのようなドタバタになりがちだけど,この作品は3幕構成のひとつひとつが独立した構成を持っていることもあってしっかり読める.これはたぶん,話の骨子が「すばる」と「美穂子」とが互いに1つずつ持っている秘密とはなにか,という形で最初に提示されて,それが続く2幕で順に明かされていく,という安心できる展開になっていることが効いていると思う.それぞれのキーポイントで,焦点人物の「美穂子」に対するタロット占いが行われるシーンが入るのもおもしろい(特に「Ⅱ」でバーテンダの「李子」に占いをさせるあたりはその強引さがよかった).物語が回想で作られているので,現在の「美穂子」が抱える問題,そして今後の「美穂子」がどうなるのかについてはあまり進展しないのだけど,それは「美穂子」しだいなんだよということを,この占いシーンが教えてくれているんだよね.
 折り込み冊子は短歌集になっていてこれもおしゃれ.1句だけ気に入ったのを選ぶとしたら,東夏の

みなごろし前に間違いなく燃える吊り橋のように恋を沈める

だよね,ミステリィ短歌を見るとうれしくなってしまうたちなので.

B16 田村弘子,月剥離(¥100)

 同人のおひとり佳丘一穂の歌集.1部は月編,2部は剥離=脱皮編の2部構成といったところでしょうか.見開きでなんとなく対になった2首が並んでいるのだけど,こちらの対などは脱皮のイメージを変えるもので個人的には感じ入りました.

脱ぎ捨てたわたしの一人がしくしくと泣き出しやがて影踏みをする


脱ぎ捨ててゆかれたあなたがざわざわと優しく諭す言葉の淡さ

オ67 バブルオーバー,咀嚼! SWIMMING サメねえちゃん③

 なにを当たり前のことをと思うかもしれませんが,まあきいてください.ひとのことばというものは,2つのできごとを口に出して説明するときに,それが因果関係にあればなおさら,先に起きたほうを先に言い,あとに起きたほうをあとに言うような傾向があります.意味(できごとの生起の順序)と形式(言語表現の順序)とのあいだに類似性が見られることを,類像性というのだそうです.
 そしてこのマンガは,前代未聞の「類像性4コママンガ」となっています! 「人間関係の距離が、物理的な文章の長さに反映されることがある」というのをネタにした“す”という4コマがいちばんよかった.

オ67 バブルオーバー,色彩に関する形容詞の比喩表現について(¥50)

 色彩に関する形容詞「赤い」「黄色い」「緑の」「青い」「白い」「黒い」のメタファーについて研究した論文.音と色とのイメージ連想の話題がちょっとおもしろい.しかし「現代日本語書き言葉均衡コーパス」の「赤い」の例はかたよりすぎてないか?