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A33 地図と小説,地図と小説 Ⅱ(¥400)

第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で1日め.
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A33 地図と小説,*地図と小説 Ⅱ*(¥400)

地図と小説 [第十九回文学フリマ・小説|純文学] - 文学フリマWebカタログ+エントリー


 タイトルのとおり,私たちがふだんよく見るような地図を冒頭に載せて,その場所での経験を語っていくつくりの本.“三人行”,“放課後”,“臨時便”の3本を収録.同人の本多篤史さんはこれの1つ前にも同じつくりの本を出していらしたのですけど,ぱらぱらながめてこちらだけ選んで分けていただきました.
 ごく平凡で,自分でもその平凡さに悩んでいるらしき人物(といって,特に経済的に貧しいというわけでもない,もしかしたらだれかの理想が投影されているかもしれない人物)を語り手にした三編は,その視線がその平凡さに寄りかかりすぎていて読みづらいところもなくはないのですけど(具体的には,“三人行”の「かっちゃん」の描写とか.なんか小市民的な遠慮が入っていて結果的になんだかよくわからない),ともすれば退屈にもなりかねない土地の風景をちゃんと読ませる,いわく言いがたい筆力がある作品です.あるいはそれだけ,土地の記憶というのはじっくり見れば魅力的なのだ,ということなのかもしれません.“三人行”,“放課後”の舞台は長崎で,長崎平和祈念像の近く(地図だと切れていますが浦上駅のすぐ北にありますよね)で過ごしたあと都会へ出た若い語り手が,出島を歩いたり高校生活を振り返ったりする話.この押さえがあってこその“臨時便”は,同じく長崎出身の語り手(おそらく前2編と同一人物)が,婚姻相手の実家への帰省で新潟から佐渡島へ行く話で,語りに登場する場と語り手の回想とが比較されて,おもしろい読書経験をつくってくれます.
 はっとした部分を引用.

僕はもっと、小さな島から来た。正確には僕が生まれたのは長崎の市街地、中華街のそばの小さな病院だ。生まれてから1年ほどは五島列島という離島にいたそうだが、記憶はない。僕の言う島はそれではなくて、母方の祖父母の家と、赤い桟橋と、火力発電所のある小さな島だ。島にはつぶれた炭鉱と、慰霊碑と、ゆるい斜面に並ぶ墓地がある。
(p. 43)

 電子書籍版もあるみたいです.
http://bccks.jp/bcck/129074/info