あなたのkugyoを埋葬する

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愛のために戦って!

 今日はこのあとひさびさに続きを読む記法を使うね。


 某飲み会に行こうと思って、そうするとせっかく芸術作品について考察するであろう人々にお会いできるわけだから、なにかのお役に立てればとCurrie論文サーベイのレジュメを2部刷ったんだけど、炎天のもと自分の自転車を探し回ったりその自転車に乗って帰宅するとちゅう大雨にはねられて心に大怪我を負うなどしたので、あきらめて自宅で新たなるレジュメを作りはじめました。
 ちかぢか就職のためのイベントがあるうえ、アルバイトもたてこんでいるので、思ったより時間がないんだよね。


 芸術作品とか社会現象とかになんの興味もないひとにも批評は必要だと思うな、という話は以前書きました。うっかり全可能世界にまで風呂敷を広げちゃったし(なんだその矛盾した風呂敷。ラッセルのお化けが出るぞ)、かなり飛ばしぎみな記事だけど、イーグルトンの影響を受けているつもりです。と、今日お会いできなかった方々を援護から背後射撃しておきましょう。
『小説の設計図』はトンデモ本じゃないから注意! - kugyoを埋葬する
 つうかこの記事、初出時にタイトルを間違えてしまって(それがブクマで突っ込まれてる)、それがそのままブクマに残ったうえ修正もきかないんだけど、どうゆうことなの……。
 あ。いま少し考えたらなおたよー。やたー。


 んー。飲み会ではいろいろ聞いてみようと思っていたこともあり。そのひとつが、童貞っていうことばの使いようです。
 童貞という語になにか強い意味あいを持たせているひとは、その発言の瞬間に性器的性行為の特権化に加担してる(童貞じゃなくなるのは、キスやハグしたときじゃなく、ペニスの先端が女性器に入ったときなんでしょ?)し、異性愛の特権化にも加担してる。だから童貞って発言した時点でその発言者は、たとえば自分のペニスにコンプレックスを持っててなかなかパートナと性行為できないために自分を責めてしまうようなひとを、ぐぐっと抑圧してることになる。へんな抑圧だよねこれ。ペニスなんか見せなくたっていいじゃんね。パートナである、ということにまつわりついたさまざまな物語(1対1でなきゃ不誠実だ、性器的セックス行為を許さなきゃ不誠実だ、異性どうしでなきゃ社会的にも生物学的にもおかしい、性は2個だけ、云々)なんか読み替えちまえよ! 安心してよ、そんなの、ほんとはただの物語なんだから! そしてそれはもちろんセックスやジェンダの話に限らない。
 たとえば批評は、ある芸術作品の受容のしかたの代替案を教えてくれる。あるいは批評理論なら、代替案を作れるようにしてくれる。それまでひととおりにしか読めず、そのためにその物語に苦しめられたひとたちを、批評はもしかしたら助けられるかもしれない。批評は飢えてる子を救えるかもしれない。聞こえてるか! サルトル
 押し付けられる苦しい物語どもを各人の必要に応じて読み替えちゃえるツールを、そもそも読み替えが可能であることさえ知らないひとたちにも手の届く位置まで提出するのが、このポストモダン社会で人類を救いうる批評家の役割じゃないの? そうして現状をかわしながら時間を稼いで、なんとかその気持ち悪い物語どもの内側に、トロイの木馬みたいに受け入れられつつ忍びこみ、デッキ破壊ウイルス*1を仕掛けていくのが、批評家の戦いかたじゃないの? もちろん、物語を壊しちゃいけないけどさ、そういう物語があったほうが快適なひとだっているんだから。殺しちゃいけない、ただ骨抜きにするだけ。カタルシスウェーブだけ。
 だから。少なくとも自分の発言が、どんなひとを苦しめる物語に駆り立てられてしまっているのか。批評家たらんとする人々には、それに気づくために常に気を配ってほしい。そのうえで、ある当事者を苦しめるだろうと気づいた発言は、少なくとも自分を批評家としてしか見ないひとの前ではしない、それが、有限の存在である人間が批評家であるための倫理だと思う。ピーター・シンガーの言葉を借りれば、

 もしある当事者が苦しむならば、その苦しみを考慮に入れることを拒否することは、道徳的に正当化できない。
(『動物の解放』p.32)

というわけです、たぶんこれは道徳的であるということの定義としてさえ受け入れられる可能性がある。


 私にはたくらみ深い批評を組み立てることはできなくて、ほかの批評のたくらみを読み替えることぐらいが関の山なんだけど。だからこそ批評家のみなさんにはがんばってほしい。神話に汚染された世界をその内側から突き崩して、悲しみなんかない世界を目指して絶望的な作戦を繰り広げてよ。いや別に動機なんて愉快犯的でいいんだけどね。


 がー。言ってみて思うけど、あまりこういうことこのブログに書くの好きじゃないな私は。移管しよかな。明日はUrmson訳をじりじり進めます。

*1:これが今日のギャグです。