あなたのkugyoを埋葬する

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ハイタ的な恋?

恋の境界事例

 みなさんこんばんは.第19回文学フリマの開催が来週に迫りました! 11月24日(祝)がとても楽しみですね.
 今回は最初に宣伝をいたします.私が参加した本の書影・目次が公開になりました!
 1つめは前回も述べた,イ-65「アーカイブ騎士団」恋愛SF小説 (forthcoming)です.
https://c.bunfree.net/paperclip/products/pictures/152f14edff6951f2614789afb4a792832048ded0_large.png
装丁は筒井さんというかたの作品になります.ぜんぶで7本の恋愛SFを収録しています.私は一足先に読ませていただきましたが,どれも恋愛についてじっくり考えることのできる作品になっています.サンプルはこちらからアクセスできますので,ぜひご覧いただければと幸いです.
 2つめはD-61「絶対移動中」の新刊です.こちらはなんとプロモーションヴィデオが公開されています!

テロップの2つめにちらっと出てくる “具合川先輩の嘔吐” というミステリーが私の参加作品です.こちらの本はテーマが「小説を書くことについて」で,たいへん難しいお題でしたがなんとか仕上げることができました.「先輩が吐くとき,犯人も吐く!」をキャッチコピーに,先輩が嘔吐するとなぜ犯人が自白するのかを焦点にしたライトミステリーとなっています.このミステリーがどういう点で「小説を書くことについて」になっているのかについては,エピグラフおよびあとがきをご参照ください.
 さて,後者を書いているときに指摘されたのですが,物語においてひとが吐いているところというのは,あまり克明に描写されるものではありません.しかしこれを逆手にとってと言うべきか,嘔吐することを恋愛と大胆な形で結びつけ,それによって恋愛のさまざまな側面を可視化したマンガ作品があります.そこで今回の「恋の境界事例」では,そんなすてきなマンガを紹介しましょう!
 それでは今夜も,恋のコーナケース! ラウンザコーナ☆

松田奈緒子,花吐き乙女

 第2回でご紹介するのは,松田奈緒子が2008年からKissに連載した作品,花吐き乙女(1) (ワイドKC Kiss) (1)〜(3)です.松田さんといえば, 重版出来! (1) (ビッグコミックス)のヒットが記憶に新しいですね.

花吐き乙女(1) (ワイドKC Kiss)

花吐き乙女(1) (ワイドKC Kiss)

 この作品の舞台は現代の日本なのですが,現実と異なっている点がひとつあります.それは「花吐き病」と呼ばれる,「片想いをこじらせると/苦しくなって/いつでもどこでも/花を吐いてしまう」ようになる奇病が流行している点です.この世界では,恋することが病気の原因となってひとを苦しめるのです.
 物語は毎回,この奇病に感染した人物の恋愛模様を描きます.「花吐き」の表現としては,吐瀉物に花弁が混じるというわけではなく,口から花が出てくるという形になっていて,ふつうに考えると見栄えの美しさもあっていくらでもせつない耽美なおはなしになりそうなものです(じじつ「花吐き病」の設定を借りた2次創作はだいぶそうなっている).しかし読んでみますと,お話は人物のぐりぐりした目を特徴とした崩しぎみの絵柄でコミカルにまとまっていて,でも盛り上げるべきところではきっちりさまざまな花を大ゴマで見せてくれるつくりになっていて,読んでいて満腹になりすぎてしまうことがありません.
 「花吐き病」を研究する「T大学アジア民族文化研究所」の「種堂新」准教授ら一味を狂言回しとして進んでいく1巻も,研究所の面々がそれぞれの恋愛模様に巻き込まれていく2〜3巻もそれぞれ楽しいのですが,ストーリーのおもしろさとは別に,各話での「ゲロ花」(吐かれた花)=「恋」の機能がよく練られたものになっています.
 たとえば,第1回での高校生「明日香」の花吐きは,「明日香」が幼少のころに,離婚して「明日香」のもとを去った父親の吐いた花から感染したため,「明日香」が花を吐くことは母親を苦しめることになってしまいます.さらに「明日香」が,友情と恋愛との選択を迫られたと考えて悩めば悩むほど,吐かれる花もそれに応じて豪華かつヴァリエーションゆたかになっていきます.自らが傷つき苦しみ,それでもれることができない宿痾としての恋が,「ゲロ花」を通じて描かれているのです.
 第2回では,研究所を訪れた(のちに助手になる)「大竹ハジメ」が「花吐き」となり,なぜそうなったのか(感染したか)の経緯が描かれます.卒論を書くネタ*1とするために出任せを言って体験入店したキャバクラで,「ハジメ」は店のNo.1の「蘭菜」に恋され,「蘭菜」の花吐き病を発症させてしまいます.「蘭菜」はその後,「ハジメ」による説教がきっかけで以前の関係を断ち切り,店の客と結婚して店をやめるのですが,その際に「ハジメ」の出まかせへのささやかな仕返しとして,自分の吐いた花をブーケとして「ハジメ」に渡します.ここでは,成就せずに解消した恋が,それも復讐の道具という形で描かれています.恋そのものが相手への意趣返しであるような恋——ときとして苛烈な恋のパワーを考えればそのような恋もたしかに可能であり,感染源としての「ゲロ花」というとっぴなはずの設定が効果的に使われて,はなからフィクションさと笑い飛ばせない説得力を与えているのです.
 このほか,「花吐き」バンドのデビューを扱って作品内社会の「花吐き」たちの扱いを垣間見せてくれる第3回,源氏物語の研究者を巻きこんでじょじょに「種堂新」たちの過去が明らかになる第4回,重要キャラクタの「カイラ」が登場する第5話も,それぞれに “恋愛とは何か” について示唆を与えるものになっていますし,動物との恋愛が「白銀の百合」にからめて描かれる第2巻以降もおすすめです.第3巻の締めがやや唐突な感じはあるのですが,通して読んでまったく損のない恋愛マンガだと思います!


 ちょっとだけ自作の宣伝です.この花吐き乙女という作品,および「恋をすると吐く」という病気の設定じたいは,「恋をすると死ぬ」という病気のアイデアを考えついてから知ったのですが,「吐く」設定は恋をすることの苦しさや喜び,そして恋の終わりを描くことができ,よくできているなあと感じています.「恋をすると死ぬ」だと,(サンプルにも書きましたが)恋した瞬間その恋は終わってしまうので,おのずからドラマは異なったものになってきますが,いくつもの恋愛エピソードを作るうえで,この作品は非常に参考になりました.(2巻の展開などは,正直言ってヤラレタと思っています.)

次回予告

 恋がひとの態度である以上,何らの事態の成立をも望まないような恋は考えにくいものです.おおげさな言葉を使うなら,恋から「欲望」を切り離すことは難しいのではないでしょうか——とはいえ,「欲望」はそれじたい非常にやっかいなタームでもあります.また,特に始まった瞬間の恋とは単なる評価的態度(イイネ!)でしかなく,したがって欲望とは関係ないかもしれません.以上のようなことを念頭に置きながら,恋の対象,恋するときにひとが対象として考えがちな諸物について,文学研究の視点で言及した文献をご紹介する予定です.

*1:ちなみにこの卒論はタイトルが「何故人は大きな頭部に魅了されるのか 社会的役割における髪型の変遷 東洋史西洋史を通して」となっており,なかなかふるっています.