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イ01 海外文学好き好きボーイズ,海外文学セレクション全レビュー(\400)

第21回文学フリマ感想 Advent Calendar 2015 - Adventar,はじめました.この記事で20日め.
私が第21回文学フリマ東京で買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(23評/23冊) - kugyoを埋葬する

イ01 海外文学好き好きボーイズ,海外文学セレクション全レビュー(\400)

海外文学好き好きボーイズ [第二十一回文学フリマ東京・小説|海外文学・翻訳] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 1994年からつづく,サスペンスに満ちた海外文学を翻訳する東京創元社のシリーズ,海外文学セレクション.現在までの作品すべてをレヴューした同人本! エクス・リブリスシリーズと比べて筋立てのはっきりした物語が多いので,レヴューもいきいきしています.

 文学作品のレヴューは,あらすじを押さえることもさることながら(出版社の紹介はほとんど役に立たないことが多い,最近はあらすじを含む訳者解説などをウェブに載せてくれるようになってだいぶよくなってきましたね),どんな作品と比較して読むといいかを教えるのがだいじな役割だと思うんですけども,この本でいうとたとえばライ,インド式マリッジブルー(田中・訳)のレヴューは移民文学(楊,ディアス,リュウ)の文脈に位置づけようと試みているし,キシュ,死者の百科事典(山崎・訳)は東欧文学の陰鬱さの系譜を教えてくれる.
 こちらのほうが私の既読も多くて,キャロル,パニックの手(青木・訳,私は新訳で読んだ),マコーマック,隠し部屋を査察して(増田・訳),アルファウ,ロコス亭の奇妙な人々,バラード,殺す(山田・訳,私は文庫版で読んだ),楽園への疾走(増田・訳),アデア,閉じた本(青木・訳,私は文庫版で読んだ),マラーニ,通訳(橋本・訳),ウィルソン,地球の中心までトンネルを掘る(芹澤・訳)など.どれもレヴューは適格だなと思いましたが,ただ,バラードの楽園への疾走,「ドクター・バーバラ」に「少年ニールはどういうわけかこの女性に性的に惹かれているようだ」(p. 49)というのはちょっと解せないかな……冒頭から,誘惑をかけてくる(かなり繊細な,もしかしたら非意図的な誘惑だけど)描写はけっこうはっきりあった気がする.まあ,「ニール」を焦点人物とした描写なので,最初からバイアスがかかっているというのはあるかも.
 紹介されているなかでいちばん読みたくなった本は,プリル,連続殺人記念日(赤尾・訳)! 毎年殺人事件が起きる片田舎の町で行われる,連続殺人の恐怖をうまく悲鳴であらわそうというコンテストに挑む主人公デビイ,しかしデビイには真の恐怖を味わった経験が足りなかった! 1995年あたりは複雑になっていたポストモダン文学がエンタテインメントのわざを取り込んでいた時期で(スリップストリームとかアヴァン・ポップとか.日本だとたとえば高橋源一郎ゴーストバスターズが1997年,その傾向は現代までつづいていると思う),このころのケッタイでおもしろい文学作品はもっともっと読みたいのがあるよね…….