あなたのkugyoを埋葬する

主に読書内容の整理のためのブログです。Amazon.co.jpアソシエイト。

イ12 まるさん,教授と、(¥200)

第21回文学フリマ感想 Advent Calendar 2015 - Adventar,はじめました.この記事で2日め.
私が第21回文学フリマ東京で買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(23評/23冊) - kugyoを埋葬する

イ12 まるさん,教授と、(¥200)

まるさん [第二十一回文学フリマ東京・小説|恋愛] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 大学教授との恋愛オムニバスということで,同人3人が日本文学の教授「成瀬」のキャラシートをもとに同じ設定で短編を作ったというもの.もとは5月の文学フリマで頒布したものみたい.


 キャラクタの扱いでは,大石景,“先生とこころ”に優れたところがあるんだけど(p. 25の「蛍さん」の冷静さはすごい),私が気に入ったのは,三月はじめ,“情熱”だった.「成瀬」のゼミの学生「麗木」は演劇サークルのスターで,こいつが川端の*雪国*(1948)の読解をしながら,スランプに陥った「成瀬」をはげましてくれるお話.小道具の扱いが取り立てて珍しいというわけじゃないんだけど,不眠におちいった「成瀬」が保健室で過ごすけだるげな時間の描写がみょうにうまい.あと,「水の中を泳ぐ魚を見つけて」「眠りの浅瀬を漂った」みたいな水関係のイメージが,スランプに悩める「成瀬」の心象の比喩としてさんざん用いられたあと,最後の場面で現実に「池があ」る公園に行き,「麗木」の演劇人としての成長をきいてスランプを脱するのは,なんだろうな,案ずるより産むがやすし,イメージと現実とはちがうよ,みたいな感じできれいな構成かもしれない.
 ほか,黒羽よき,“うたかた”は,恋愛オムニバスの冒頭短編とは思えないほどドライな別離を描いていておもしろかった.方丈記を題にとっただけのことはある.

「教授と、」 by 三月 on pixiv