あなたのkugyoを埋葬する

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ウ12 少女サナトリウム,METEOR EP(¥700)

第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で24日め.
私が文学フリマで買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(29評/30購入) - kugyoを埋葬する

ウ12 少女サナトリウム,*METEOR EP*(¥700)

少女サナトリウム [第十九回文学フリマ・小説|ライトノベル] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 “青空さんのメテオ”,“天使二号”,“無限軌道の夜”の3編を収録した,木野誠太郎の短編集.カバーのついたしっかりした装丁と,3編それぞれを予告する巻頭イラストなど,買うだけでも満足できそうなつくり.こういうタイプの同人本が文学フリマに出てきた当初はけっこう驚いたものだけど,最近はまた少し珍しくなってきた気がする.
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 物語はそれぞれ独立しているのだけど,作品集のタイトルである「METEOR EP」が示唆するように,どの作品にも「メテオ・イーター」もしくは「調律者」と呼ばれる,三位一体のカマイタチみたいな超越存在の影がさしている.この「メテオ・イーター」は,星の害を調律して組み立て直すとされる存在で——1体が隕石を食らい,2体めがそれをエネルギーに変え,3体めが食らった星と新たに生まれた星とを調律する——,この存在があることで,すべての物語に崩壊の足音が忍び寄ることになる.
 “青空さんのメテオ”は,マンガに登場する「メテオ・イーター」によるこの世界のぶっこわしを夢見る,現実遊離ぎみな高校生ふたりのおはなし.筋立てとしてはまあ男の子向けで,はじめは自分のなすことを信じられず無為だなんだとぶつくさ言っていた語り手「尾崎」が,学校の屋上で空想癖のある女子に出会い,そいつへのいじめの予感とかをあんまり深入りせずに見逃しているうちに,ちょっとしたことで高校生活が楽しくなり,でも最初の女子をいじめから——現実のつらさから助けたい,という気持ちでちょっとがんばってうまいことやった,という流れなのだが,p. 80までこの流れですらすらと進んできたこの物語に,ひとによっては蛇足にすら見えかねないp. 82以降が加わっていることで,物語がぐんと引き締まっている.

「尾崎先輩! やりましたね〜」
「おーい、尾崎? 告白はうまくいった?」
(中略)
 人生のうちで白線を引くことはもう二度とないだろうけど、下手は下手だったなりに、無為ではなかった。野球をやっていたことは今に活きているんじゃないかなんて、そんなことを思った。

これがp. 80のシメで,ここで終わってもよさそうなものだが,西ノ田による1ページのイラストを挟んで,物語はまだつづく.p. 82からは,けっきょく「尾崎」と件の女子との物語は交わらなかったこと,ふたりは「メテオ・イーター」がかつて示唆していた「別の世界」を生きることになったことが描かれる(まあ同じ学校のなかなんだけどね).「尾崎」が描いて見せた一夜の夢はそれきりで消えるのがすがすがしくて,そこにたどりつくまでにちょっと気になっていた甘さを取り除いてくれた.
 同人サイトにて全文公開中だけど,pp. 24-25のちょっとした仕掛けがきれいなので,本で読むことをおすすめします.
 “天使二号”は,「調律者」が実在の脅威となって危機に瀕している世界で戦う女子高校生の話.これは文章も硬いし,挿話やキャラクタの造形もかなり物語に奉仕するだけになっていて正直言えば読みづらいのだけど,この本全体のなかでは,破滅の前・最中・そして破滅の後ということで,バランスをとって次の“無限軌道の夜”につなげるだいじな役割を果たしている.欲を言えば,LaCiによるイラストのイメージ喚起力が強いので,それに負けないぐらいの書きこみがほしかった.
 “無限軌道の夜”は,話じたいがかなりファンタジーものに寄っているためか,語り手が前2作品よりやや幼いように見えるにもかかわらず,重ための文体に違和感がない.「無限軌道」と呼ばれる世界規模の環状鉄道に乗って,叔父のもとへと亡命する語り手「ニーナ・ヤマガタ」の語りは,序盤のあたりなど旅人の情緒不安定なところをうまく描いていて共感する.「永久凍土の国」の描写や,「ニーナ」の出身国が破滅してしまったようす(これに「調律者」がからんでいる)が断片的に描かれるところもうまいと思う.プロットにもいくつかのアイデアが盛り込んであって,それがちゃんとこの作品の世界像のなかで活きている.
 各短編だけ見ると不満もあるのだけど,3つ合わせると全体として美しい構成になっていて,最後まで読んでオオッと思った.もし次の作品があるなら,ぜいたくなことをねだるようだけど,「メテオ・イーター」のイメージを同様に保って,ぜんぜん違うタイプの破滅前・破滅中・破滅後の話を読みたい.それだけのアイデアがあるという感じがした.おすすめ.