イ73 blacksheep 2D,*ここがソノラマなら、きみはコバルト*(¥1,500)
第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で20日め(時間操作ずみ).
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イ73 blacksheep 2D,ここがソノラマなら、きみはコバルト(¥1,500)
blacksheep 2D [第十九回文学フリマ・小説|SF] - 文学フリマWebカタログ+エントリー
西島大介による,羊の角らしきものが生えた少女のイラストと,なんとカセットテープ付きというとんでもない販売形態とが目を引く同人本.カセットテープには,私の大好きな田中啓文の作曲作品が収録されているぞ!
吉田隆一,“羊子ちゃんの未来史”はとてもおもしろい.人類が滅亡し,羊が羊人間と化した未来に,「羊子」が草原で本を読んでいるという牧歌的なシーンからはじまって,羊人間がショットガンを構えてジープで突進するという表紙のようなシーンへと進んでいく,そのSF設定が秀逸なので,ここでぜひ紹介したい.
ふつう人類滅亡といったら,人類は滅亡したか,滅亡の縁に瀕しているかのどちらかだ.そして滅亡というのは,人類個体がみんな死んでいなくなってしまうことを意味する.ところがこの作品では,人類が滅亡したかどうかは,じつはあいまいなのだ.それは作品を読む私たちにとってぼかされているということではない.作中の人類たちにとってすら,人類が滅亡しているかどうかがあいまいなのである.どういうことか.p. 27から引用しよう.
羊兵士が非公式に戦場に投入され始め数年後、例の「行方不明」事件が発生する。我々人類が世界規模で「行方不明」になりはじめたんだ。
なんと,人類は互いに互いを認識できなくなり,「『行方不明』」と見なすようになってしまったのだ! 客観的には人類はみんなそのへんをうろうろしているのかもしれないのだが,個々人(小グループ)の認識の上では,ほかの人類はもういなくなってしまっている.こんなことになってしまった原因のほうにも,「羊兵士」に組み込まれた意識共有のためのナノマシンが人間に感染してしまい,暴走を起こした,という秀逸な説明がついている.
したがって物語は,人類滅亡後の羊人間たちの動向を主軸としつつも,生き残った(?)人間,そして人間が残した「ターミネーター」ふうのロボット兵器,などがからんでくることになり,そしてそのせいで一気に血なまぐさくなってくる.この同人本収録部分だけだといいところで終わってしまっているが,まだまだ「羊子」と妹の「∞羊子」(角が∞の形をしている)との旅のつづきを読みたいものだ.
ほか,水見稜,“黒羊号の上昇と下降——そして異星で遭遇した音の群れ”も,宇宙船SFと現実の作曲風景とのイメージを重ねて幻惑的.
あと,本とカセットテープとをまとめている帯があるのだけど,この帯には開いたところにライナーノーツが書いてあるので,捨てちゃだめですよ!