あなたのkugyoを埋葬する

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A26 生え際,生え際(¥0)

第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で10日め.
私が文学フリマで買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(29評/30購入) - kugyoを埋葬する

A26 生え際,*生え際*(¥0)

生え際 [第十九回文学フリマ・小説|純文学] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 詩・評論・小説を収録した総合文芸誌.こういうのを手にとって読むのが文学フリマの楽しみだと個人的には思う.
 小説は,田越直裕,“雨の日の次の日”が好き.ぼーっと読んでいるとうっかり読み飛ばしてしまいそうだけど,この落ち着いた語り口の裏側では,登場人物「sgt」も「ik」もおそらく小学生であるかもしれないという事実が隠されている.「sgt」の幼いころの回想などもあり,語りの時点がいつなのか明確にはわからないのだけど,「ik」の大人びた語りも含めてせりふをト書きふうにして実際の発話(物語内の発話)から切り離してあることからして,わざとそこがあいまいにしてあるのは明らかだろう.昆虫(トンボ)やカナヘビといった小生物への着目があるいっぽうで,現在の「sgt」は車を運転するなどもしており,「ik」の父親であるようにも読める.福永信を思い起こさせる(私が好きな作家なだけですが)語りのマジックが楽しく,再読必至のよい作品でした.
 評論は清水智史,“煥発——阿部和重小論”を収録.*シンセミア*(2004)からのいわゆる「トリロジー」を扱うもの.小説一般についての第1節は1文ずつが短すぎてちょっと野暮ったいのと,昨今の優れた芸術性から物語性が失われているというかなり怪しい認識(たぶんむかしのポストモダン文学の一部を重大視しすぎている.他のメディアだとむちゃなほど重厚な物語は,現代も今後も変わらず文学のトレンドじゃないのかな)が目につくのとがあってちょっと苦しい.あと,せっかく聴覚や嗅覚といった「劣等感覚」に着目したのであれば,「赤」とか「熱い光」とかいった視覚的比喩を批評の重要なイメージとして持ち込むのは説得力を減じると思う.
 ほか,はっくにゃん,“ある種の不完全性のためのかぎりある種”,石坂優人,“宴もたけなわ”を収録.
 田越,“雨の日の次の日”より,はっとした箇所を引用.

 なにに惹かれて——塗料の白色を、日が差しこむ水面の反射に見間違えて、その光に惹かれて——水だと信じたのか。脇目も振らずその偽の水面へと飛び、その光のなかで、白い鉄板を掻き上げるようにつついた先端は触感を——ボンネットの高熱と強硬による拒絶に、とがった柔らかな腹の先が、ちゅん、と火傷した肉のように縮み、破られて傷むことはなかったのか——疑わなかったのか。

どことなく歌曲のように、浮かんだ疑問をあとから追いかける問い・答えが、のんべんだらりとなりがちな単線的な黙考記述のわきで走っている複線的雑念をうまく捉えている.まねしたい!

ウ17 一番合戦,一番合戦 魔法使い編(¥200)


第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で9日め.
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ウ17 一番合戦,一番合戦 魔法使い編(¥200)

一番合戦 [第十九回文学フリマ・小説|ライトノベル] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 毎回和製ファンタジーガジェットをテーマにした小説集を出している同人「一番合戦」(いまかい,とお読みします)発の,「魔法使い」をテーマにした本.前回の第18回文学フリマで出していた「ロボットと少女」特集に感想を書いたので,その流れでこちらもいただきました.
 濃色の表紙のイメージに合った“ふたりの魔法使い”の木島によるBパートが,夜のイメージを変える試みでおもしろい.木島,“11人目のまほうつかい”,大雲,“クルイ・C・新太郎、クエストに出る”はどちらも例の“なろう系”作品なのだけど,“クルイ・C・新太郎、クエストに出る”は冒頭のパートの“第0話 「イゼフス・R・創也、転職を決める”ぐらいのはしゃぎ度合いのまま進めてもらえたら,続きが気になる作品になると思う.工学博士から魔法使いに転職するというのはなかなか魅力的な設定だ(手強そうだけど).

エ52 喫茶モンスター,*別冊Café Monster vol. 04*(¥400)


第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で8日め.そろそろ苦しくなってきたわね.今日はあやうくベントされるところだった,寒くてキータイプの運指がつらいのよ.どなたか手伝って!
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エ52 喫茶モンスター,別冊Café Monster vol. 04(¥400)

喫茶モンスター [第十九回文学フリマ・ノンフィクション|ルポ・ドキュメンタリー] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 著者による喫茶店のイラストレポート.愛らしいイラストによるメニュー紹介に,店舗の雰囲気をよく伝えるコメントがうれしい1冊.vol. 04号ということでネタ切れの心配はないのか,勝手ながら心配になって少しブースでおしゃべりさせていただいたのだけど,活動圏を関東以外にも次々広げていて,まだまだネタもあるそう.

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 だいたい量がすごくて,「かよってやすらぐ お店編」だけで10店舗,驚愕の「オレグラッセめぐり♡」にも8店舗,それぞれ通った記録がつけてあって,どのお店にもほんとうに行ってみたくなる.うちいくつかは私もおたずねしたことあります,のでわかるのだけど,ディー・カッツエさんとかまさにイラストどおりの雰囲気ですよね〜,なかなか得がたい紅茶専門店でさらに猫がくつろいでいるという,また行きたいですな〜.
 いま驚愕の「オレグラッセめぐり♡」と書いたけど,なにが驚愕って,メニューに「オレグラッセ」(café au lait glacé)というのがある店が複数あることに気づいた著者が独自に調査したところ,じつはそれらの店は,すべて共通のルーツを持っていたことを探り当てたところ.「オレグラッセ」は原義ではただのアイスカフェオレなのだけど,頼むとなぜか牛乳 vs. コーヒーの二層にきれいに分かれたものが出てくるところが多く(ふつうのアイスカフェオレとは別メニューになっているところも),店どうしの雰囲気も似通っているらしい.そして,どうやらそれらのお店は,自由が丘に現存するとあるカフェのマスタが確立し,そのスタイルをのれんわけのようにして継承して広まっていったものらしいのだ! 何人ものすてきなマスタを輩出するルーツとなったお店がどこかについては,この同人本を読んだかたのお楽しみとしておきましょう.じつは店の共通点はメニューやインテリア以外にもあり,なんと,店舗の建築デザイナが同じらしいのだ! うおっ,これは,中村青司やないかい!(綾辻行人のミステリー作品に登場する架空の建築家で,殺人事件の起きる館をたくさんデザインした人物).これは,きっと「オレグラッセ」を出す店から店への秘密の抜け穴とか,あるんだろうな……(ないない).
 いちばん行きくなったのは,p. 23に紹介されている,曙橋の〈MORGAN〉さんだけど,ほかにもこの本片手に街に出たくなるおいしそうな記述がたっぷり詰まっています.そんなこんなで,楽しいカフェ通いの日々をつづったほっこりイラストコラム集,おすすめさんデス.

カ28 幻視社,*幻視社 第八号*(¥600)

第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で7日め.
私が文学フリマで買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(29評/30購入) - kugyoを埋葬する

カ28 幻視社,幻視社 第八号(¥600)

幻視社 [第十九回文学フリマ・評論|ファンタジー・幻想文学・怪奇文学] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 プロ活動中のライタや批評家陣による豪華な(そして信じがたいほど安価な——文フリ価格かしら,値下げしましたよね?)同人本.毎度ありがたく拝読しております.
 今回の特集は2つ.1つは「フィクションのエル・ドラード」叢書をはじめとしたいくつかの水声社の本の紹介で,私がラテンアメリカ文学でもいっとう好きなコルタサル作品のほか,どの作品も熱のこもったレビューになっていてうれしい.できればもう少し作品じたいの仕掛けを読みほぐしていくネタバレ的要素がほしいところだが,この陣営にそこまで頼んだら値段がはねあがってしまうだろう.ここから先はご自身の目で,といったところか.
 ブースでもたしかフィーチャされていた,岡和田晃による“ジュノ・ディアス,『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』を味わう”は卓上ゲームに造詣の深い岡和田ならではの熱のこもった解説が誌上に再現されていて楽しいのだが,岡和田じしんが注意喚起し批判している(p. 51)とおりの「自閉的なオタク小説として」の読みが生き残ってしまう感じがするのが気になった.作中のたくさんの小ネタが単なる思わせぶりではなく,当時の卓上ゲームについての感覚と作中の事態とを照応させる形で入っている,ということじたいは非常におもしろいのだけど,では作品全体のなかでそういう投入はどういう機能を果たしているのかも知りたいじゃないか.
 もう1つの特集「中村うさぎ特集」は,どうしても中村うさぎという「自己分析の言葉に長けている」(p. 88)特異な人物への理解という形に陥りがちなのだけど,*極道くん漫遊記* シリーズのレビューはそこにとどまっておらずおもしろい.(私個人としては,中村うさぎがそれほど自己分析の言葉に小説家として長けているとは思わないのだけどね.まだ名指されていなかった感覚をうまいこと言い当てた先行サブカルチャ作品を探し当てるのがじょうずだというより,先行サブカルチャ作品のばくぜんとしたイメージだけを利用しているという感じがする)
 ほか,小説では,佐伯僚,“とかげの体温”がとても好き.ちょっと愛について甘ったるい感情を抱きすぎではという気もするが,それでいて「僕」が過剰にヒロイックにならないところがおもしろい.

D52 かなめ珈琲会,*リープ*(¥400)

第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で6日め.
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D52 かなめ珈琲会,リープ(¥400)

かなめ珈琲会 [第十九回文学フリマ・小説|短編・掌編・ショートショート] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 つるつるした山吹色の表紙が目を引く短編集.表題作“リープ”のほか,“帰還”,“レティシアの椅子”の3作品を収録.
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 どの作品もたくらみを含んでいて読み終わると楽しいのだけど,なかでもいちばんは巻頭の“帰還”だろう.ドットで描かれたような表紙の文字,ピラミッド状に組まれた目次(NTTデータの昔のロゴみたいな感じ),そして冒頭で「金属の扉」のなかから,まるで地球に帰還したカプセル式宇宙船のなかからのようにして登場する「僕」,さらにはこの作品ぜんたいが回想として「夢中になって」書かれている手記であること,それを書きつけている赤と青とのノート(SF映画 *マトリックス レボリューションズ* には赤と青とのピルが出てくることで有名ですよね)という道具立てが,読者にまずはホラー・サイエンスフィクションとしての展開を予感させる.この予感は中盤まで読み進めていくうちに失われるのだけど,だからといって単なる思わせぶりに終わるものなどではない.それどころか,読者の期待が読み進むなかで薄れていくという読書体験そのものが,この作品の重要なトリックになっていると思われる.どういうことか.
 この読書体験は,出自に謎がある「僕」に対して,その出自の謎を繰り返すような形で次に現れる人物,「きぃちゃん」の描写とシンクロしている.「きぃちゃん」は,はじめは「僕」以上に浮き世離れして見える(=読者がホラー・サイエンスフィクションを期待している)のだが,「僕」がふと気づいたときには逆に現実のこの世界の重さを代表する(=読者がこれはホラー・サイエンスフィクションではないんじゃないかと疑いはじめる)存在になっているというように,読書体験の変化に呼応して異なる描かれかたをされているのだ.また,読者ではなく作中の「僕」が「きぃちゃん」の変貌に驚くのは,長い期間をともに過ごしているからこそなのだけど,読者がその驚きを追体験できるのは,作品の長さによって同じ期間を過ごしたように錯覚するからではない(作品じたいはけっして文字数が多いわけではない).ここにも,読書経験を利用したトリックがある.
 ふつうに考えると,ジャンルの期待が失われた時点で,読者は読むのをやめてしまってもいいはずだ(「なんだSFじゃないのか,やめよ」ってなってもおかしくない).しかし,読者はおそらくそう思わずに,別の期待のもとでこの作品を読みつづけることになるだろう.その別の期待を引き起こしているのは,ホラー・サイエンスフィクションとしての期待が薄れるのと差しかえるようにして,タイトル「帰還」の意味づけをいちど変えることだ.冒頭では,この地球への帰還のことを指すように思われたものが,「僕」と「きぃちゃん」との目標として,ここを離れてもといた場所へ帰還するという形に入れ替わる.また,他人からは必ずうちに戻ってくる優等生なのだと安心させているという意味で,作中の「僕」たちにも帰還の内実が複数あることが理解されている.こうやってだれがどこに「帰還」するのかについての新たな理解を読者に与えることで,「帰還」を中心とした新たな展開予想を立て直し,この作品に対していま持つべき期待は“次に提示される「帰還」の意味はなんだろう?”というものですよ,といちど指示を出しておく.これによって,読者は最初の期待が別の形に切り替わり,あとでもう一度もとの期待に「帰還」するという形の読書体験ができるようになっている.読者は途中で自分でもそれと気づかないままこの作品に飽き,そのうえで別のかたちでこの作品に引きつけられ,最後になってもう一度もとの期待を満たされる.
 作品の最後の箇所では,ここまで説明してきた「帰還」の意味づけ,サイエンスフィクションふうの理屈づけ,そしてもっと読者に対し間口が広いであろう「僕」と「きぃちゃん」との関係,これら3つがきれいに重なりあう.物語が,自分自身の長さ(どのシークエンスにどれくらいの文字数をかけ,どれくらいの伏線や展開をどこで入れるか)やジャンル(読者の期待)を自覚的に利用するように作られた,ひとり同人本(3作すべて中町日名子の作品)ならではの作品だ.
 ほか,固体から液体へと変化するアイスクリームのイメージと,空中に溶け出してくる他人の心内発話とを重ねた“リープ”,二人称現在を使うことで生まれる「きみ」の空所性を最後のトリック(○ープ)にうまく使った“レティシアの椅子”もよい.(「きみ」の空所性はふつうは読者を巻きこむのに使われるけど,ほかにもさまざまなひとを「きみ」に代入していいのだ,という事実が使われている.)

キ22 読書サロン,*読書サロン活動報告2014*(¥200)

第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で5日め.
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キ22 読書サロン,読書サロン活動報告2014(¥200)

読書サロン [第十九回文学フリマ・評論|文芸批評] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 「セクシャル・マイノリティと呼ばれる登場人物たちが活躍する小説を、応援する会」である「読書サロン」という団体による書評冊子.2013年の2月からコンスタントに開催されているようで,21本の1ページ書評(+22本ぶんの「次に読む本」式読書案内)がつまったおトクな本になっている.
 サロンじたいにも異性愛を必ずしも志向しない参加者が多いようで,どのページをとっても,性愛についての異性愛中心主義(性愛のなかで異性愛が中心でありほかの性愛は周辺的なものであるという立場)とか関係についての異性愛中心主義(人間関係のなかで異性愛が中心でありほかの関係は周辺的なものであるという立場)とかについて無条件には受け入れないという立場が見てとれ,正直言って心地よかった.
 とりあげられる小説は,男性ゲイ作家による男性ゲイ小説や,女性作家によるレズビアン小説からはじまって,耽美小説・少女小説,トランスジェンダやインタセックスについての記述がある小説も入ってくる.どの書評をどなたが書かれたのかはよくわからない(たぶん2人か3人ぐらいが中心になって書いている)のだけど,どれも無批判に楽しまれているわけではなくて,作品に見られる現実に即さない記述に対する指摘などもあり,いっぽうで巻末コラムにはそういう指摘のしかた自体について悩むところがあるという吐露もあり,批評意識に貫かれているところも楽しい.こういう読書会,うらやましいっす.
 いちばん気に入ったのはp. 18の,江國香織きらきらひかる の書評.「3人とも嫌いになれる」などの皮肉が好みなのです.次の号はまた2年後になるのかもしれませんが,また訪れたいブースが増えました.

オ9 永井弘人 本日のアトオシ,「ロゴマークを軸とした展開。」が特長のグラフィックデザイナー永井弘人による、「日常とデザインの間口を拡げる雑文集。」(¥600)

第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で4日め.
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オ9 永井弘人 本日のアトオシ,*「ロゴマークを軸とした展開。」が特長のグラフィックデザイナー永井弘人による、「日常とデザインの間口を拡げる雑文集。」*(¥600)

永井弘人 本日のアトオシ [第十九回文学フリマ・ノンフィクション|エッセイ・随筆] - 文学フリマWebカタログ+エントリー


 日常とデザインの間口を広げる,ということで,数日に1本のペースで2年ぶん書きためられた雑文集.デザイナ生活のなかで食べたもの(コンビニの新商品とか),自分を激励することば,たまにデザイン上の心得が読める.2年もフリーランス生活をつづっていれば,お忙しいとき,おヒマなとき,いろいろあるもので,通して読んでいると,なんとなくその仕事の波が見えてくるようでおもしろい.個々の記事の中身はまえに書いたようにけっこう偏っていて,エピソードについても,現在の仕事や家庭のことよりは,日常のふとしたきっかけで思い出した過去のエピソードが多く,そのためか長いこと読み進めたところではじめて「エッ! 犬をお飼いで!」と唐突に見えてくる一面があるような構成で,なかなか尻尾をつかませないというところがある(これはエッセイを書くうえでひとつの大事な特性だと思う).
 書いていると言葉に引っ張られるのはだれでもそうだと思うけど,このかたもときどき,特に各日付のシメの部分で脚韻を踏んでいたりして(ひとつひとつが短いので,わりとたたらを踏むみたいな感じのあわてっぷりだけど),それがいい具合にリズムを作っている.
 コミティア参加などはあったそうでそのエピソードも楽しいけど,表紙見返りに著者作成のロゴサンプルが載っていて,これの創作秘話なども読めたらいいなと思う.2014年4月ぶん以降の雑多な文は,下のサイトで読めるみたい.

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C08 女流文芸サークル【鉄塔】,劇場(¥300)

第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で3日め.
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C08 女流文芸サークル【鉄塔】,*劇場*(¥300)

https://c.bunfree.net/c/bunfree19/1F/c/8
 日芸卒のかたがたの同人本ということで,きれいな表紙とかわいらしい裏表紙と,センタカラーとが目を引く1冊.
https://c.bunfree.net/p/bunfree19/2243/

収録作品は短いものが多くて読みやすい.印象に残るのは飯島あどね,“醜いあひるの子”(1行に1行ぶんしか書けない小説という不自由なメディアを使うのがきゅうくつそうで読んでいておもしろい),企画になっている「元・文芸学科生がよくある算数の文章題を解いたら・・・」では山田鞠,“蛇口”(水をためながら語り手が考えることが「要するに毎日毎日、昨日の残りものを消費する感じ。」というのがいい,算数の文章題では水をためる話だけどふつうに水を出していたら水は消費するものに見えるもんね)がよかった.
 あと,とびらのところに

花かおる くらい舞台を駆け抜けり 誰にでもあいたいひとがいる

という短歌が載っていて,ダジャレ的には3つほどおもしろい点がある.

B32 覚めゆく午后,何処へも行けない(¥500)

第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で2日め.
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B32 覚めゆく午后,*何処へも行けない*(¥500)

覚めゆく午后 [第十九回文学フリマ・小説|純文学] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 なぞめいた人物「香沼郁」をいくつもの視点から描きながら,冒頭のシークエンスへと語り進めていくおはなし.初川遊離さんの作品で,東堂冴さんによる豪華解説つき!
 「香沼郁」をめぐっていくつもの兄弟愛を描く構成はとてもおもしろい.ふつうのひとは兄弟愛はたかだか1つしか持てないものなのだけど,この作品は「日向」(ヒナ)というそれ自体が「香沼郁」とは別の人物の弟であるような人物の設定を,「香沼郁」のもとにほとんど誘拐じみた形で家出してきて,もう9年もともに弟として暮らしている,というようにすることで,形式的に見てもなかなか複雑な兄弟関係を設定している.
 語り手が複数いる作品らしく,章分けや文章で遊んでいるところもあって楽しく読める(とはいえ遊びきれていないところもあって,語り手たちを複数の別の人物として読むのがつらくなってしまう場所もある——たとえば語彙の選択がそう).なかでも,「香沼郁」を最後まで語り手に据えず,闇に消えていく人物として描き抜いた禁欲はすばらしいと思う.ただ,登場する兄弟ペアどうしが似すぎている点がちょっと不満で,そしてどれも“弟に甘えてしまってちょっと後悔している兄”という形におさまってしまうのではないか.さまざまな人物のあいだに共通点があるのはいいんだけど,共通点は違いがはっきりしたときにこそ迫力を持てると思うんだよね.
 東堂の“解説”では,登場人物たちはタイトルのとおり「何処へも行けない」ということになっているが,私は逆にこの「香沼郁」がどこへ行ってしまうかわからないというところがこの作品の魅力だと思うし,じじつ「香沼郁」は自分の行き先を語り手たちに見せることさえしていないように思える.pp. 78-79の会話での「俺ら」の使いかたなんかはみごとだ.「香沼郁」は自分のことをしゃべっているのではなく,ページごとに語り手たちに最適な態度をとりつづけているだけなのではないかとすら思える——期待を少しはぐらかし,いっぽうで気を持たせる.
 読み終わって気づいたのだけど,表紙が凹凸加工でなかなかおしゃれ.同人によるサンプル紹介(特に表紙イラスト)のイメージでピンと来たかたにおすすめ.通販もあるみたいです.

etherify 「何処へも行けない」サンプル

A33 地図と小説,地図と小説 Ⅱ(¥400)

第19回文学フリマ感想 Advent Calendar 2014 - Adventar,はじめました.この記事で1日め.
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A33 地図と小説,*地図と小説 Ⅱ*(¥400)

地図と小説 [第十九回文学フリマ・小説|純文学] - 文学フリマWebカタログ+エントリー


 タイトルのとおり,私たちがふだんよく見るような地図を冒頭に載せて,その場所での経験を語っていくつくりの本.“三人行”,“放課後”,“臨時便”の3本を収録.同人の本多篤史さんはこれの1つ前にも同じつくりの本を出していらしたのですけど,ぱらぱらながめてこちらだけ選んで分けていただきました.
 ごく平凡で,自分でもその平凡さに悩んでいるらしき人物(といって,特に経済的に貧しいというわけでもない,もしかしたらだれかの理想が投影されているかもしれない人物)を語り手にした三編は,その視線がその平凡さに寄りかかりすぎていて読みづらいところもなくはないのですけど(具体的には,“三人行”の「かっちゃん」の描写とか.なんか小市民的な遠慮が入っていて結果的になんだかよくわからない),ともすれば退屈にもなりかねない土地の風景をちゃんと読ませる,いわく言いがたい筆力がある作品です.あるいはそれだけ,土地の記憶というのはじっくり見れば魅力的なのだ,ということなのかもしれません.“三人行”,“放課後”の舞台は長崎で,長崎平和祈念像の近く(地図だと切れていますが浦上駅のすぐ北にありますよね)で過ごしたあと都会へ出た若い語り手が,出島を歩いたり高校生活を振り返ったりする話.この押さえがあってこその“臨時便”は,同じく長崎出身の語り手(おそらく前2編と同一人物)が,婚姻相手の実家への帰省で新潟から佐渡島へ行く話で,語りに登場する場と語り手の回想とが比較されて,おもしろい読書経験をつくってくれます.
 はっとした部分を引用.

僕はもっと、小さな島から来た。正確には僕が生まれたのは長崎の市街地、中華街のそばの小さな病院だ。生まれてから1年ほどは五島列島という離島にいたそうだが、記憶はない。僕の言う島はそれではなくて、母方の祖父母の家と、赤い桟橋と、火力発電所のある小さな島だ。島にはつぶれた炭鉱と、慰霊碑と、ゆるい斜面に並ぶ墓地がある。
(p. 43)

 電子書籍版もあるみたいです.
http://bccks.jp/bcck/129074/info

購入全誌感想(6評/30購入)

 みなさんこんばんは.第19回文学フリマが先日開催されましたので,いくつか感想を書きました.
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A28 京都ジャンクション,京都ジャンクション 第六作品集 夜行(¥300)

 第五号(感想)がとてもよかったので楽しみにしていた本.全体的には前号のほうが好みだけど,文の上品さは変わらず.表紙の写真もかっこよく,この質の本を300円で買うのが文学フリマのいちばんの楽しみだと私は思う.
 巻頭にある濱松,“緑の袖は振らない”がいきなりうまい……前号の“火”は全体を彩るさまざまな火のイメージにひかれて気づかなかったけど,このひと一つ一つの挿話が適度な凝りかたなんだよな.
 安樹,“コンペイトウの降る庭”,心地よい語りの途中で「亜紀」が唐突に出てきてびっくりした,そこのところはおもしろいのだけど,しかしその人物があまり魅力的でない……前号の“赤い大陸”のイメージが薄暗さの感覚を伝えて話もきれいにシメるアイデアだったのに比べると,今回のは物足りず.語り口は好きで,もっと長く読んでいたかった.
 大鴉こう,“月曜日はパスタだって言ったのに”,いいもの書くなあ.言いたいこと言えないでいる語り手の前に現れる,「足音のしない」「息が乱れ」ない「茉莉」とか,姿を見せない「お母さん」とかが演出する不穏な空気がうまい.この雰囲気のまま進んでほしかったので,p. 67の答え合わせがやや露骨すぎる感じはする.水没したワインが醸し出す「死」の匂い(まあヨモツヘグイですよね)が,タイトルの見えかたをじわじわ変え,冷や汗かきながら読み進んでいると,不意に出てくる語り手の自己分析(=もうひとつの答え合わせ),こっちは見事だと思う.小説で凡庸な大人を描くのって難しいのにね.

 大鴉,“月曜日はパスタだって言ったのに”より, 気に入った部分を引用.

 俺はワインの瓶を持ち上げ、目の前でくるくると回転させた。そして布巾を剥がし、瓶の表面をよく調べたが、やはりラベルらしいものは残っていなかった。唯一の由来に繋がる手がかりは、瓶の表面をびっしりと覆った苔だった。こんなに生えるには、一体、何年掛かるのだろう。そして、九月の湖水はどんなに冷たいだろう。そんなことを考えていた。

D23 ケシュ ハモニウム,にっぽんトワイライトばなし(¥800)

 むかしばなし×オカルトブームということで笑いが止まらない本.鶴の恩返しをコンドル化(おコンという名前になる)した“佐吉”がいちばんウケた.製本もこっていて(同人によるぜいたくな内容紹介)素敵.800円という値段は,文学フリマ価格と思うと高価だが,本屋で見たら即購入よね.これだけのこった絵本はこの値段では書店で買えない……耐久度とかに違いはありそうだけど.開くのに力がいる製本だし.

B16 田村弘子,モンパルナスの月(¥300)

 同人の3人によるリレー小説(「田村弘子」が同人の名称で,3人の作者は佳丘一穂、東夏江美,樟氷しずく).リレーというと即興セッションのようなドタバタになりがちだけど,この作品は3幕構成のひとつひとつが独立した構成を持っていることもあってしっかり読める.これはたぶん,話の骨子が「すばる」と「美穂子」とが互いに1つずつ持っている秘密とはなにか,という形で最初に提示されて,それが続く2幕で順に明かされていく,という安心できる展開になっていることが効いていると思う.それぞれのキーポイントで,焦点人物の「美穂子」に対するタロット占いが行われるシーンが入るのもおもしろい(特に「Ⅱ」でバーテンダの「李子」に占いをさせるあたりはその強引さがよかった).物語が回想で作られているので,現在の「美穂子」が抱える問題,そして今後の「美穂子」がどうなるのかについてはあまり進展しないのだけど,それは「美穂子」しだいなんだよということを,この占いシーンが教えてくれているんだよね.
 折り込み冊子は短歌集になっていてこれもおしゃれ.1句だけ気に入ったのを選ぶとしたら,東夏の

みなごろし前に間違いなく燃える吊り橋のように恋を沈める

だよね,ミステリィ短歌を見るとうれしくなってしまうたちなので.

B16 田村弘子,月剥離(¥100)

 同人のおひとり佳丘一穂の歌集.1部は月編,2部は剥離=脱皮編の2部構成といったところでしょうか.見開きでなんとなく対になった2首が並んでいるのだけど,こちらの対などは脱皮のイメージを変えるもので個人的には感じ入りました.

脱ぎ捨てたわたしの一人がしくしくと泣き出しやがて影踏みをする


脱ぎ捨ててゆかれたあなたがざわざわと優しく諭す言葉の淡さ

オ67 バブルオーバー,咀嚼! SWIMMING サメねえちゃん③

 なにを当たり前のことをと思うかもしれませんが,まあきいてください.ひとのことばというものは,2つのできごとを口に出して説明するときに,それが因果関係にあればなおさら,先に起きたほうを先に言い,あとに起きたほうをあとに言うような傾向があります.意味(できごとの生起の順序)と形式(言語表現の順序)とのあいだに類似性が見られることを,類像性というのだそうです.
 そしてこのマンガは,前代未聞の「類像性4コママンガ」となっています! 「人間関係の距離が、物理的な文章の長さに反映されることがある」というのをネタにした“す”という4コマがいちばんよかった.

オ67 バブルオーバー,色彩に関する形容詞の比喩表現について(¥50)

 色彩に関する形容詞「赤い」「黄色い」「緑の」「青い」「白い」「黒い」のメタファーについて研究した論文.音と色とのイメージ連想の話題がちょっとおもしろい.しかし「現代日本語書き言葉均衡コーパス」の「赤い」の例はかたよりすぎてないか?

購入全誌感想(29評/30購入)

第19回文学フリマに買いものに行き,以下の30冊を購入しました.

合計¥13,200なり.土曜あたりに24挑戦しますがたぶんむりなので,ちょこちょこ書いていきます

ハイタ的な恋?

恋の境界事例

 みなさんこんばんは.第19回文学フリマの開催が来週に迫りました! 11月24日(祝)がとても楽しみですね.
 今回は最初に宣伝をいたします.私が参加した本の書影・目次が公開になりました!
 1つめは前回も述べた,イ-65「アーカイブ騎士団」恋愛SF小説 (forthcoming)です.
https://c.bunfree.net/paperclip/products/pictures/152f14edff6951f2614789afb4a792832048ded0_large.png
装丁は筒井さんというかたの作品になります.ぜんぶで7本の恋愛SFを収録しています.私は一足先に読ませていただきましたが,どれも恋愛についてじっくり考えることのできる作品になっています.サンプルはこちらからアクセスできますので,ぜひご覧いただければと幸いです.
 2つめはD-61「絶対移動中」の新刊です.こちらはなんとプロモーションヴィデオが公開されています!

テロップの2つめにちらっと出てくる “具合川先輩の嘔吐” というミステリーが私の参加作品です.こちらの本はテーマが「小説を書くことについて」で,たいへん難しいお題でしたがなんとか仕上げることができました.「先輩が吐くとき,犯人も吐く!」をキャッチコピーに,先輩が嘔吐するとなぜ犯人が自白するのかを焦点にしたライトミステリーとなっています.このミステリーがどういう点で「小説を書くことについて」になっているのかについては,エピグラフおよびあとがきをご参照ください.
 さて,後者を書いているときに指摘されたのですが,物語においてひとが吐いているところというのは,あまり克明に描写されるものではありません.しかしこれを逆手にとってと言うべきか,嘔吐することを恋愛と大胆な形で結びつけ,それによって恋愛のさまざまな側面を可視化したマンガ作品があります.そこで今回の「恋の境界事例」では,そんなすてきなマンガを紹介しましょう!
 それでは今夜も,恋のコーナケース! ラウンザコーナ☆

松田奈緒子,花吐き乙女

 第2回でご紹介するのは,松田奈緒子が2008年からKissに連載した作品,花吐き乙女(1) (ワイドKC Kiss) (1)〜(3)です.松田さんといえば, 重版出来! (1) (ビッグコミックス)のヒットが記憶に新しいですね.

花吐き乙女(1) (ワイドKC Kiss)

花吐き乙女(1) (ワイドKC Kiss)

 この作品の舞台は現代の日本なのですが,現実と異なっている点がひとつあります.それは「花吐き病」と呼ばれる,「片想いをこじらせると/苦しくなって/いつでもどこでも/花を吐いてしまう」ようになる奇病が流行している点です.この世界では,恋することが病気の原因となってひとを苦しめるのです.
 物語は毎回,この奇病に感染した人物の恋愛模様を描きます.「花吐き」の表現としては,吐瀉物に花弁が混じるというわけではなく,口から花が出てくるという形になっていて,ふつうに考えると見栄えの美しさもあっていくらでもせつない耽美なおはなしになりそうなものです(じじつ「花吐き病」の設定を借りた2次創作はだいぶそうなっている).しかし読んでみますと,お話は人物のぐりぐりした目を特徴とした崩しぎみの絵柄でコミカルにまとまっていて,でも盛り上げるべきところではきっちりさまざまな花を大ゴマで見せてくれるつくりになっていて,読んでいて満腹になりすぎてしまうことがありません.
 「花吐き病」を研究する「T大学アジア民族文化研究所」の「種堂新」准教授ら一味を狂言回しとして進んでいく1巻も,研究所の面々がそれぞれの恋愛模様に巻き込まれていく2〜3巻もそれぞれ楽しいのですが,ストーリーのおもしろさとは別に,各話での「ゲロ花」(吐かれた花)=「恋」の機能がよく練られたものになっています.
 たとえば,第1回での高校生「明日香」の花吐きは,「明日香」が幼少のころに,離婚して「明日香」のもとを去った父親の吐いた花から感染したため,「明日香」が花を吐くことは母親を苦しめることになってしまいます.さらに「明日香」が,友情と恋愛との選択を迫られたと考えて悩めば悩むほど,吐かれる花もそれに応じて豪華かつヴァリエーションゆたかになっていきます.自らが傷つき苦しみ,それでもれることができない宿痾としての恋が,「ゲロ花」を通じて描かれているのです.
 第2回では,研究所を訪れた(のちに助手になる)「大竹ハジメ」が「花吐き」となり,なぜそうなったのか(感染したか)の経緯が描かれます.卒論を書くネタ*1とするために出任せを言って体験入店したキャバクラで,「ハジメ」は店のNo.1の「蘭菜」に恋され,「蘭菜」の花吐き病を発症させてしまいます.「蘭菜」はその後,「ハジメ」による説教がきっかけで以前の関係を断ち切り,店の客と結婚して店をやめるのですが,その際に「ハジメ」の出まかせへのささやかな仕返しとして,自分の吐いた花をブーケとして「ハジメ」に渡します.ここでは,成就せずに解消した恋が,それも復讐の道具という形で描かれています.恋そのものが相手への意趣返しであるような恋——ときとして苛烈な恋のパワーを考えればそのような恋もたしかに可能であり,感染源としての「ゲロ花」というとっぴなはずの設定が効果的に使われて,はなからフィクションさと笑い飛ばせない説得力を与えているのです.
 このほか,「花吐き」バンドのデビューを扱って作品内社会の「花吐き」たちの扱いを垣間見せてくれる第3回,源氏物語の研究者を巻きこんでじょじょに「種堂新」たちの過去が明らかになる第4回,重要キャラクタの「カイラ」が登場する第5話も,それぞれに “恋愛とは何か” について示唆を与えるものになっていますし,動物との恋愛が「白銀の百合」にからめて描かれる第2巻以降もおすすめです.第3巻の締めがやや唐突な感じはあるのですが,通して読んでまったく損のない恋愛マンガだと思います!


 ちょっとだけ自作の宣伝です.この花吐き乙女という作品,および「恋をすると吐く」という病気の設定じたいは,「恋をすると死ぬ」という病気のアイデアを考えついてから知ったのですが,「吐く」設定は恋をすることの苦しさや喜び,そして恋の終わりを描くことができ,よくできているなあと感じています.「恋をすると死ぬ」だと,(サンプルにも書きましたが)恋した瞬間その恋は終わってしまうので,おのずからドラマは異なったものになってきますが,いくつもの恋愛エピソードを作るうえで,この作品は非常に参考になりました.(2巻の展開などは,正直言ってヤラレタと思っています.)

次回予告

 恋がひとの態度である以上,何らの事態の成立をも望まないような恋は考えにくいものです.おおげさな言葉を使うなら,恋から「欲望」を切り離すことは難しいのではないでしょうか——とはいえ,「欲望」はそれじたい非常にやっかいなタームでもあります.また,特に始まった瞬間の恋とは単なる評価的態度(イイネ!)でしかなく,したがって欲望とは関係ないかもしれません.以上のようなことを念頭に置きながら,恋の対象,恋するときにひとが対象として考えがちな諸物について,文学研究の視点で言及した文献をご紹介する予定です.

*1:ちなみにこの卒論はタイトルが「何故人は大きな頭部に魅了されるのか 社会的役割における髪型の変遷 東洋史西洋史を通して」となっており,なかなかふるっています.

「ラクになる」というタイトルの短編は2つある

ちょっとマンガを買いすぎた.


少女は黄昏に住む (マコトとコトノの事件簿)
はパズラ短編集で,フーダニットの“吹雪のバスの夜に”を期待して読んだ,あと語り手の特徴づけ(スイーツに目がなくて任侠にあこがれる,というなんかタロットカードで作ったみたいな性格)は参考になる.
人生の意味とは何か (フィギュール彩)は訳が悪くて信頼しづらいなあ(原文に当たらなくてもほぼまちがいなく誤訳だとわかる訳語ってあるよね).あとイーグルトンの書きぶりも,自分の主張なのか論敵の主張なのかだれそれいわくの主張なのか判然としない.これではこの本が全体としてどういう主張を立証したいのかわかりません.

最近借りた本のリスト.

世界はなぜ「ある」のか?: 実存をめぐる科学・哲学的探索

世界はなぜ「ある」のか?: 実存をめぐる科学・哲学的探索

ラクになる

ラクになる

誰がドルンチナを連れ戻したか

誰がドルンチナを連れ戻したか

少女は黄昏に住む (マコトとコトノの事件簿)

少女は黄昏に住む (マコトとコトノの事件簿)

遁走状態 (新潮クレスト・ブックス)

遁走状態 (新潮クレスト・ブックス)

恋愛論 (大学書林語学文庫)

恋愛論 (大学書林語学文庫)

最近買った本のリスト.

Ethics and the Beast: A Speciesist Argument for Animal Liberation

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The Inquiring Mind: On Intellectual Virtues and Virtue Epistemology

The Inquiring Mind: On Intellectual Virtues and Virtue Epistemology

Writing the Book of the World

Writing the Book of the World

下半身の論理学

下半身の論理学

知覚の哲学入門

知覚の哲学入門

真理から存在へ:〈真にするもの〉の形而上学

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フェミニズムの困難―どういう社会が平等な社会か

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現代の経済思想

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現代思想 2014年6月号 特集=ポスト・ビッグデータと統計学の時代

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アスペルガーの女性がパートナーに知ってほしい22の心得

アスペルガーの女性がパートナーに知ってほしい22の心得

落語としての哲学 (教養選書)

落語としての哲学 (教養選書)

チューリングの妄想

チューリングの妄想

マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)

マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)

On Writing: 10th Anniversary Edition

On Writing: 10th Anniversary Edition

キッドイズトイ

キッドイズトイ

仮面ライダー鎧武ザ・ガイド

仮面ライダー鎧武ザ・ガイド

リヴァイアサン号殺人事件―ファンドーリンの捜査ファイル

リヴァイアサン号殺人事件―ファンドーリンの捜査ファイル

クリスマス・プレゼント (文春文庫)

クリスマス・プレゼント (文春文庫)

三姉妹とその友達

三姉妹とその友達

三階に止まる

三階に止まる

想像ラジオ

想像ラジオ

フレームシフト (ハヤカワ文庫SF)

フレームシフト (ハヤカワ文庫SF)

見晴らしのいい密室 (ハヤカワ文庫JA)

見晴らしのいい密室 (ハヤカワ文庫JA)

大きな森の小さな密室 (創元推理文庫)

大きな森の小さな密室 (創元推理文庫)

バビロニア・ウェーブ

バビロニア・ウェーブ

UN‐GO~因果論 (カドカワコミックス・エース)

UN‐GO~因果論 (カドカワコミックス・エース)

UN‐GO 敗戦探偵・結城新十郎(1) (カドカワコミックス・エース)

UN‐GO 敗戦探偵・結城新十郎(1) (カドカワコミックス・エース)

今日の恋のダイヤ (花とゆめCOMICS)

今日の恋のダイヤ (花とゆめCOMICS)

陽炎日記 (アフタヌーンKC)

陽炎日記 (アフタヌーンKC)

月館の殺人 (下)??

月館の殺人 (下)??

月館の殺人 上 IKKI COMICS

月館の殺人 上 IKKI COMICS

長閑の庭(1) (KC KISS)

長閑の庭(1) (KC KISS)

花吐き乙女(1) (ワイドKC Kiss)

花吐き乙女(1) (ワイドKC Kiss)

花吐き乙女(2) (ワイドKC Kiss)

花吐き乙女(2) (ワイドKC Kiss)

花吐き乙女(3) (ワイドKC Kiss)

花吐き乙女(3) (ワイドKC Kiss)

ひきだしにテラリウム

ひきだしにテラリウム

竜の眠る星 (第1巻) (白泉社文庫)

竜の眠る星 (第1巻) (白泉社文庫)

空挺懐古都市 1 (フラワーコミックススペシャル)

空挺懐古都市 1 (フラワーコミックススペシャル)

空挺懐古都市 2 (フラワーコミックススペシャル)

空挺懐古都市 2 (フラワーコミックススペシャル)

空挺懐古都市 3 (3) (フラワーコミックススペシャル)

空挺懐古都市 3 (3) (フラワーコミックススペシャル)

あそびあい(1) (モーニング KC)

あそびあい(1) (モーニング KC)

不老姉弟 (花とゆめCOMICS)

不老姉弟 (花とゆめCOMICS)

哲学ミュージカル

http://youtu.be/7RiubTEWFAk?t=23m19s

ルーア   :物理の知識はマリーが持つんだからね
マリー   :前提2が偽でしょ
ガーネット :もうみんな 歌いながら論証するのはやめて
リリアン  :だまってて 部屋出ようが 部屋出ないが*1 知ることは可能よ
マリー   :もう知らない

クオリアの哲学と知識論証―メアリーが知ったこと

クオリアの哲学と知識論証―メアリーが知ったこと

*1:「部屋出まいが」だと思うけどたぶん歌詞は「歌わないが」になっている