あなたのkugyoを埋葬する

主に読書内容の整理のためのブログです。Amazon.co.jpアソシエイト。

読書の秋に紅葉“借”り

  • 美術を書く,(2014,竹内・監訳),美術に特有のことが書かれた1-4,7-8章だけ少し読んだけど,のこりも大変役に立つ.ダジャレ注意もある! 「これらの的外れな音の繰り返しは、言葉への過度の注意を喚起し、あなたの主張の妨げになる。」(p. 180),まったくだ!
  • 匂いの哲学,日本語版序文では,小山泰史,山本直樹,Maki UEDAの名前が,現代の嗅覚芸術家としてあがっている.嗅覚芸術の歴史についてたいへんすぐれた本だと思う.Maki Uedaらが所属する,グループ「すけべにんげん」は,オランダで上演した作品などがある:すけべなパフォーマンスの薫香
  • マーサ・ヌスバウム - 人間性涵養の哲学 (中公選書),バトラー批判やスピヴァクの応答への再反論として,あなたがたのやってるのは白人中流階級が安全に痛くなるためにすぎないだろ,っていうことを言っていて,まあそれはそれでもっとも.私はシンガーなど同様に苦痛の個人間比較はできるという立場なので,精神科医に通い詰めてる大学教授の肩をつかんで揺すぶってやるのにはわりと賛成しています.
  • ヘイト・スピーチという危害(2012=2015,谷澤&川岸・訳),かなりよかった.ヘイトスピーチ(や,この本でも言われるとおり女性を物象化する表象)が,ひとに不快感をもたらすからではなく社会の公共財を壊すからいかん,って議論で,おおすじ賛同だが壊す公共財は安心や尊厳ではないと思う.ヘイトスピーチを行うがわだって,これぞ安心できる社会を作る手段だと(建前上は)信じてるわけなので,ことが公共財である以上,どちらの安心をとるかは難しくなる.壊されるのはむしろ,近代社会が前提するべつの価値,たとえば個人の優位とかでは.
    • で,歴史的にそういう価値と対立していた表現は,たとえ中流マジョリティの感覚では無害に思えても,糾弾する理由があることになるだろう.
      • ウォルドロンは,集団へのヘイトスピーチも個人の尊厳を侵害する,だからいかんのだ,と個人主義的な面を強調するが,私はこれけっきょく個人の不快に依拠してしまうと思う.たとえ成員みながよしとしててもなお,個人の尊厳を侵害する社会はよくない,という不偏的〔impartial〕な価値を強調すべきでは.
      • 物象化の危険を指摘する議論にも,物象化って楽しいこともあるとか,べつのことを見いだしてエンパワされるひともたくさんいるとかの主体説的な反論があって,再反論としては,それは調査結果と矛盾する(社会学)が最強だけど,不偏的な価値を持ち出せば哲学的にも五分まで持ち込めると思うんだよね.
    • 言論の自由の便益との比較考量になるので,一面的な線引きは難しいが,でも立法ってそういう困難な作業をすることじゃん,ってのはそのとおりだと思う.ただ,比較考量といっても,思想・言論の自由はたとえば表現としての放火みたいなのまで守りはしない,という指摘はだいじ.発話行為で公共財を破壊したらそれは言論の域を超えるわけだ.
    • あと,ヘイトスピーチがある社会は安心かって問いについて,「ここには排外主義者はいませんよ」みたいに明言せんといかん社会は,危険がその場になかったとしても安心ではありえない,なぜなら安心とは危害がないだけでなく,それが暗黙的である必要があるから,って指摘がおもしろい(p. 104).

最近借りた本のリスト.

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ウ30 かなめ珈琲会,包丁研ぎます(¥0)

第21回文学フリマ感想 Advent Calendar 2015 - Adventar,はじめました.この記事で4日め.
私が第21回文学フリマ東京で買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(23評/23冊) - kugyoを埋葬する

ウ30 かなめ珈琲会,包丁研ぎます(¥0)

かなめ珈琲会 [第二十一回文学フリマ東京・小説|短編・掌編・ショートショート] - 文学フリマWebカタログ+エントリー
[R-18] 【文学フリマ】「包丁研ぎます」/「中町 日名子」の小説 [pixiv]

 短編小説BLと銘打たれた無料配布本.
 大学入学とともにアパートで1人暮らしをはじめた「入谷」の部屋の向かいには,「包丁研ぎます 五○○円」と張り紙が出してある.実際に包丁を持って行ったらそこの住人に研いでもらえたのだが,住人はどうやら部屋で売春をしているらしく,夜な夜な扉を開けて客が入っていくところを見ているうちに,「入谷」は「二宮」と名乗るその住人のことが気になり出す.
 これ,設定としてうまいのは「二宮」の部屋を廊下の向かいの部屋にしなかったところだと思う.完全に真正面だと,扉を開けてのぞくのが不自然になってしまい,ドアスコープを使うことになっただろう.男から女への欲望を基調として発展してしまった文学ってジャンルがあるんですけど,そっちだと,そういう窃視を軸にお話を展開するんじゃないかと思うのだが,この作品では「入谷」はあくまでも自分の部屋の扉をそっと開けることになっている.これが,大学入学で独立生活をはじめた誇らしさ(“新しい扉を開ける”ってやつ)の描写にもなっているし,窃視とはちょっとちがうフェアさへのおずおずとした配慮の表現にもなっている.じっさい,「入谷」は「二宮」に見つめ返されることにもなる.
 あと,もう1つ無配の短歌集があって,そこに収録されている連作「となり町」の構成がよかった.思い人がとなり町(そのていどの距離)のところに行ってしまったさびしさを,乱暴なところのある動詞を並べることで際立たせている短歌なのだけど,最後のところでどうも飛行機に乗るような歌が3首つづくのね,エッと思って読んでいると「大きな犬を飼う人の瞳」とか「看板が標識が黄色」みたいにどうも人種がちがうひとのいる異国に行ったみたいになっている(この際,日本の標識も黄色いのが多いという事実はさておく),おいおいとなり町はどうしたよと思うわけですが,その直後の最後の首が「さみしくて買う温泉の素」ということで一気に帰国したことになっている,このあいだになにがあったのかは想像するしかない.ないんだけど,海外に気分転換に行っても晴れないどころか「失くし物をした気になった」のように気がかりはつのるばかり,という状況が印象的に表現されていると思う.
 前回の私の感想はこちら

イ19 原廠設計局,キルミーベイベー アラウンド・サーティー(¥700)

第21回文学フリマ感想 Advent Calendar 2015 - Adventar,はじめました.この記事で5日め.
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イ19 原廠設計局,キルミーベイベー アラウンド・サーティー(¥700)

原廠設計局 [第二十一回文学フリマ東京・小説|百合] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 あの,高校を舞台にしたギャグマンガ,カヅホ,*キルミーベイベー*(2008-)の10年後を,スパイアクションふうの重たい文章で小説化した作品.出だしから

 武蔵野の低い街並みを対岸にみる多摩川沿いの堤防に、青草のすえた匂いが立ち上ると、もう夏がくる。

とくらぁな.ハードめの読み心地が独特の寂寥感を彩っている.ネタとしては「やすな」がチャック(2007-2012)になるって感じで,けっこうモブキャラ(KGBの中尉とか)が出てくるんだけどこれぜんぶチョーが声あててんのかなと思うと*1めちゃくちゃおもしろい読書体験になった.私は,「やすな」がもっとばりばり上から目線で突っ走ってばりばりコケるのが好きなんだけど,「ソーニャ」がいなくなって10年もたったら「やすな」だってあんなにはしゃげないよな.大人になると本気のどつきあい(絞め技)ができなくなるんだね……

https://pbs.twimg.com/media/CVDw_h5VEAA2Ing.jpg

 通販もやっているそう.おもしろいのでファンのかたどうぞ.

*1:アニメ版*キルミーベイベー*(2012)では,主要の4人以外の声やナレーションはすべてチョーと新井里美とが担当している.

C30 もの喰うひと,ものの本(人間版)(¥300)

第21回文学フリマ感想 Advent Calendar 2015 - Adventar,はじめました.この記事で3日め.
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C30 もの喰うひと,ものの本(人間版)(¥300)

もの喰うひと [第二十一回文学フリマ東京・小説|エンタメ・大衆小説] - 文学フリマWebカタログ+エントリー
「ものの本」もの喰うひと@第二十一回文学フリマ東京 - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 こびとを共通の設定に使った,ちょっとブラックな物語4編を収録.
 「芳樹さん」を介護している語り手,「私たち二人の生活」に小人がやってくる,“コビトヲ愛シタ男”がおもしろい.タイトルのわりに「芳樹さん」が小人とどう接したのかはほとんど描かれていないのだが,それは同じ物語を小人を焦点人物として描いた“小人日記”としてまとまっている.
 作者あとがきにもあったが,小さいものはなんで愛でたくなるのか,これはこれだけで小説になるテーマなので,そういう作品も読んでみたい.小人の場合,ただ小さいというだけでなく,ミニチュアとかパロディとかいった要素が入ってくるのだが,この本では後者にフォーカスをあてていたように思う.
 会場では,同内容の作品を豆本として頒布しており,そちらを通常版と呼んで,冊子サイズのものを「人間版」としていた.小人に定位した頒布形式というわけだ!

オ37 さつき屋,お仕事インタビュー本(¥100)

第21回文学フリマ感想 Advent Calendar 2015 - Adventar,はじめました.この記事で3日め.
私が第21回文学フリマ東京で買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(23評/23冊) - kugyoを埋葬する

オ37 さつき屋,お仕事インタビュー本(¥100)

さつき屋 [第二十一回文学フリマ東京・ノンフィクション|インタビュー] - 文学フリマWebカタログ+エントリー
「お仕事インタビュー本」さつき屋@第二十一回文学フリマ東京 - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 男性看護師に業界裏話をインタヴューしたペーパ.職業ものっていうのはいつの時代のどんな職のでもおもしろい.
 看護師業界は女性社会だということが強調されていて,そこに対するアンビヴァレントな思いがうかがえるインタヴューだった.力仕事ができる,雰囲気がぎすぎすしない(これは異物が入ってくるからというだけで,男性だからってわけではないと思うが)などの理由で男性看護師は歓迎されるそうだが数が少ない,それを男性看護師から見ると,女性看護師とは仕事がしづらく,男性看護師にもっと増えてほしい,という感想になるようだ.どこの部署が花形であるとかいった情報もおもしろい.(ただ,私は労働における花形ってのがよくわからないんだよね.メディアに露出したり顧客に直接ほめられたり人望集めてチームの舵取りしたりするのが花形か?)
 賃金に関しては,このインタヴュイーは労働の対価としては安定度もあってわりがいいと思っているらしい.ただ,インタヴュー中では触れられていないが,看護師業界の現在の待遇って,過去に女性看護師が労働争議に踏み切ったおかげなんだよね.それまではもっとひどかったという.だから,まあ仕事のうえで日々の摩擦はあると思うのだが(自分の機嫌を満足させることを仕事のスムーズな遂行より優先させるひとは男女問わず一定数いて,そういうひととスムーズに仕事を遂行するのは——当然だが——たいへんだ),「女子はつるむ民族だから」というその背景に,そういう争議のための“つるみ”もあったんだな,とときおり想像してもよいかもしれない.

 完売しちゃったそうなので,一期一会……次回も楽しみ.

イ12 まるさん,教授と、(¥200)

第21回文学フリマ感想 Advent Calendar 2015 - Adventar,はじめました.この記事で2日め.
私が第21回文学フリマ東京で買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(23評/23冊) - kugyoを埋葬する

イ12 まるさん,教授と、(¥200)

まるさん [第二十一回文学フリマ東京・小説|恋愛] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 大学教授との恋愛オムニバスということで,同人3人が日本文学の教授「成瀬」のキャラシートをもとに同じ設定で短編を作ったというもの.もとは5月の文学フリマで頒布したものみたい.


 キャラクタの扱いでは,大石景,“先生とこころ”に優れたところがあるんだけど(p. 25の「蛍さん」の冷静さはすごい),私が気に入ったのは,三月はじめ,“情熱”だった.「成瀬」のゼミの学生「麗木」は演劇サークルのスターで,こいつが川端の*雪国*(1948)の読解をしながら,スランプに陥った「成瀬」をはげましてくれるお話.小道具の扱いが取り立てて珍しいというわけじゃないんだけど,不眠におちいった「成瀬」が保健室で過ごすけだるげな時間の描写がみょうにうまい.あと,「水の中を泳ぐ魚を見つけて」「眠りの浅瀬を漂った」みたいな水関係のイメージが,スランプに悩める「成瀬」の心象の比喩としてさんざん用いられたあと,最後の場面で現実に「池があ」る公園に行き,「麗木」の演劇人としての成長をきいてスランプを脱するのは,なんだろうな,案ずるより産むがやすし,イメージと現実とはちがうよ,みたいな感じできれいな構成かもしれない.
 ほか,黒羽よき,“うたかた”は,恋愛オムニバスの冒頭短編とは思えないほどドライな別離を描いていておもしろかった.方丈記を題にとっただけのことはある.

「教授と、」 by 三月 on pixiv

D69 カリベユウキ,暗極城(¥300)

第21回文学フリマ感想 Advent Calendar 2015 - Adventar,はじめました.この記事で1日め.
私が第21回文学フリマ東京で買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(23評/23冊) - kugyoを埋葬する

D69 カリベユウキ,暗極城(¥300)

カリベユウキ [第二十一回文学フリマ東京・小説|ホラー・怪奇] - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 文学フリマ当日,ひとにすすめまくったこの作品から,怒濤の24日間をはじめることにしましょう.
 いやー,おもしろかった.前回(第18回文学フリマ)出店時のときに出会った作品がほんとうによかったので,今回も期待していたのですが,それを上回るドライヴ感でした.
 舞台は,街の地下に広がるなぞの城.地上の住民はその正体を知らないどころか,ダミーとして建てられた地上の城や,そこでときたまテロ事件を演出するダミー市民などにだまされているが,地下に広がっているのは侵入者をねじまげ狂わせる物質に満ちたきてれつな空間だった.その空間からときたま這い上がってくる虫の群れを退治する「補助隊員」のエース「カナ」は,濃い闇にもぐって「結節点」を破壊する危険な単身突入のさなか,おのれの才覚と「アンプル」とだけをたのみに地下の冒険をする「冒涜者」の「K」を目撃する.ふつうの人間ではとどまることすら難しい暗黒空間での,ありえない邂逅は,暗さ極まる城を揺るがすトリガとなった!
 「カナ」が「結節点」を破壊しにいく第1部はほんとうにリーダビリティが高い.これには理由があって,「カナ」そしてもうひとりの焦点人物「K」が,いずれもすべてのページで前進しつづけているせいだ.「カナ」は最初の登場時は地下鉄に乗っているのだが,呼び出しを受け,地下の拠点,そして重力方向を狂わせる「暗素」が満ちた空間,そのさらに奥に向かい,ほとんど立ち止まらずにどんどん垂直に降りていく.ちょっとエスカレーターを降りるシーンでも,垂直に落ちるという動きが強調される.

…緊急事態であることを一応思い出したカナは、手すりに載って長大なエスカレーターを滑り降りることをふと思い立ったのだ。
(中略)
 エスカレーターは尋常じゃない長さだった。スピードは激しく高まっていく一方で、いい加減降りたくてたまらなかったけれど、速度が出すぎて飛び降りるのも怖い。バランスを取って手すりから落ちないでいるのが精いっぱいだ。
「助けてくれー」と、カナは絶叫したが、広すぎる駅構内は誰もいない。
(pp. 78-79)

 バカタレ! と思わないでもないが、しかしこの頼りない調子コキちゃんが、深い位置に到達すれば到達するほど頼もしくなっていくのがおもしろい.この,危険なところへ行けば行くほど強くなる,というのはもうひとりの焦点人物,「冒涜者」の「K」も同じだ.
 第2部は,最深部から帰ってきた「カナ」や「K」が,「暗素」をとりこみすぎたせいで起きる副作用に悩まされながら——これは「カナ」のような者にとっては毎度のことなので,持病とつきあうみたいな感じなのだが——,「城」に生まれたさらなる空間に再潜入する,という筋立てになっている.前半に比べると場面が多く,そのぶん「城」をめぐるなぞに迫る感じになっている.
 全編とおして,水や砂や肉や泥,そしてなにより生きている瘴気のかたまり「暗素」といったものに生き埋めになりながら,どこかへ押し流されていく,あるいはそれに抗おうともがく,もがいているうちにたまたまべつのところへたどりつく,という場面が繰り返される.小説っていうのは読者がページをめくらないと先に進まないものだが,それを強引に動かすために,こうした量感のあるかたまりの流れを使っているような感じがしておもしろい.
 ラストで,「K」が「城」のことを回想しながら,こんなふうに独白する.

 あそこは、まるっきりデタラメな場所なのだ。そんなデタラメな場所があることが、オレは何よりも嬉しかった。そこは、人間が理解できるような、ちっぽけな場所ではない。途轍もなくバカでかく、どんな解釈も許さない地平へとつながっている——。

 正直に言うと,「城」じたいがここで言われているほど強烈ななぞになっているわけではないのだが,上で述べたような泥に飲み込まれる描写の連発は,自分でページを繰っているはずなのに見通しがきかず,それなのに危険なところへ運ばれていくことだけはわかる,という点で,「城」をもっと探索したくなる場所として演出してくれている.


 オススメの1冊!

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購入全誌感想(23評/23冊)

第21回文学フリマにて,以下の23冊をお分けいただきました.しめて¥10,050.

お分けいただいた本すべてに感想を書きました.


これと,自分のところで出品したもの(感想など)を加えると,ちょうど24冊!

ユートピア小説集

ユートピア小説集

24冊と来たら,やはりやるしかありませんね……7年まえからつづくあの企画,文学フリマ24,24日以内にすべての本の感想を書くあの企画を…….
ひとまずadventar立てました.
第21回文学フリマ感想 Advent Calendar 2015 - Adventar

第20回文学フリマの感想(6/16購入)

私が第20回文学フリマで買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(0評/16購入) - kugyoを埋葬する

A22 京都ジャンクション,*京都ジャンクション 第七作品集 勾配*(¥300)

 第21回文学フリマでのブースはB-02.
 安樹茂里,“その水槽はスカイフィッシュのもの”は,シルバーアロワナの水槽とともに暮らす「私」が,それから「ミコ姉ちゃん」とともに,もはや他人となった父に死期が近づいたときをどう乗り切るか,という話.途中で「未生」の話をはじめた時点で,家を追い出されたクズな父の死期に際して,その逆の「未死」,つまり死んではいないがいなくなった状態(=交通事故でなくなった母の状態)を出してくるんだなっていうのは想像がついたので,展開はすなおなんだけど,丁寧に一歩一歩書き進めてくれてほんとうに粘り腰だなっていうのがわかる.詩とか作曲とかやると身につくのかもしれないけど,提示部,展開部,再現部っていうきっちりした流れをいくつかのサブストーリーにわたってじっくりやってのけるのは,それだけで体力がいる大仕事だと思うのだ.後半,もしかしたらべつの構想があったのでは,という箇所があるので(推敲が足りていなくてもっと書きたかったふしが見受けられる),次の作品もぜひ読みたい.あとタイトルがいいと思う,これは前作(「コンペイトウの降る庭)・前々作(「赤い大陸」)でも思った.
 高瀬遊,“水底の魚”は,ビオトープで厄介もの扱いされるブラックバスたちにちょっとややこしい親近感を抱いている,通信教育部の「ケラさん」と,無神経なふだんの「ケラさん」をけむたがっている従業員の「若林さん」とを描く.語りのつなぎをうまく使って,「ケラさん」に読者を感情移入させたあとでそれを「若林さん」焦点に切り替えることで裏切る,みたいな技が用いられていて,ちょっとケルフィッチュみたいでおもしろい.再び焦点人物が「ケラさん」に戻ったあとで,ブラックバスの卵をつぶしてしまおうとする教育委員会の連中とやりとりさせるところなんかは,やっぱりちゃんと「ケラさん」が無神経というか他人との距離感をうまく計れてないことがわかるように書かれていてうまいなと思った.われわれはふつう無神経な登場人物には感情移入しないものだが,ちょっとした技術でそれをくつがえす奇妙な読書経験をつくることができるのだ.
 智東与志文,“投棄と逃走”が今回はいちばんおもしろかった.職場の駐車場で包丁を拾ってしまい,捨てそびれている銀行員の「ヤマベ」を語り手として,現代日本から“逃げる”とはどういうことか,が描かれる.ボケた老人にハイリスクな金融商品をつかませて逃げた前任者,カタい仕事は未来がないと踏んで事業をたちあげようとした(のに通り魔に殺されてしまった=逃げきれなかった)「カワハシ」,老人相手に商売をする「ヤマベ」と同居しながらも老後のことは考慮していない,写真家の「ヒカリ」.

「老後ってなんなんだろうね?」
「え?」
「わたしはこのまま写真を撮り続けて撮れなくなったらそこで死ぬのかなって思ってるから、老後ってよく分からないな」

 このモラトリアムにありがちなセリフに説得力を持たせるにはそれなりの思索が必要になる.それを「ヤマベ」の内省のなかでちゃんと描き,最後にちょっと唐突にも思える「投棄と逃走」で苦笑いを含んだカタルシスを組んだのはうまいなと思った.
 大鴉こう,“キリンのたまご”は次号につづくのだが,これもつづきが楽しみ.放浪時代に「僕」が訪れた,戦争中に放棄された黒曜石の島「サルミアッキ島」.そこに住むなぞの老人「ワタナベ兵曹」とのツーショット写真を手がかりに,建設会社の「吉田部長」と「安田さん」,そして「僕」の三人組は,ふたたび「サルミアッキ島」を目指す.冒頭の「キリンのたまご」の挿話の位置づけはまだ明かされていないが,「サルミアッキ島」のたどった現実味のある運命や,エキセントリックな「安田さん」のキャラクターでしっかり話がもたせてある.
 第19回文学フリマでの私の感想はこちら.購入全誌感想(6評/30購入) - kugyoを埋葬する

B31 トリアトリエ,*サリチル*(\300)

 第21回文学フリマでのブースはC17.
 溶解性の奇妙な海のそばに立つ家になかば自分から閉じこもり,パートナーの帰りを待ちわびる「リリ」.同じような境遇にある隣家の真っ赤な髪の女は「ピリン」と名乗り,自身のパートナーを射殺して転がりこんでくる.海から来る「鬼」を「戦争」で迎え撃つ準備を進める役割を持つふたりには,しかし大きな違いがあった.
 パートナーが残した,煙草の煙と腐ったコーヒーとが入ったコーヒーのボトル缶,それをだいじそうに少しずつ飲む「リリ」の,幻想的ななかにちょっとイヤな描写を入れるバランスがいいなと思った.「ピリン」はおそらく,タイトルの「サリチル」(アセチルサリチル酸のことだろう)と同様に鎮痛剤(アセチルサリチル酸の商標がアスピリン)を示していて,「戦争」の解決はなにも進んでいないが痛みを忘れて生きる「リリ」の今後を暗示している.

C51 女流文芸サークル【鉄塔】,*深海*(\500)

 第21回文学フリマでのブースはC48.
 水族館にいる生きものからテーマを選んで書かれた4本の短編競作.
 日々谷俊太郎,“ラッコだってぼんじりが食べたい”がおもしろかった.ラッコっていうのは動物のなかでは例外的にものを持ち運ぶ(貝を割る石).つまりものへの執着があるように見える.これが,語り手の持っている弟への未練と対応している.ラストで,弟は食べる機会がなかったはずの焼き鳥を食べることで昇華される.焼き鳥というのも奇妙な食べもので,食べるための道具が刺さっていてはじめて焼き鳥であって,串を抜いて出せばよさそうなものだがそうはならないのだ.
 第19回文学フリマでの私の感想はこちら. C08 女流文芸サークル【鉄塔】,劇場(¥300) - kugyoを埋葬する

エ22 マゾヒスティック・リリィ・ワークス,*ダメ女子的映画のススメ。*(\350)

 第21回文学フリマでのブースはオ08.
 映画評を集めたブックレット.映画評といっても単品だけでなく複数の作品の対立関係みたいなものを公開時期などと絡めて書いてくれている.*エンジェル・ウォーズ*(2011)を評した,赤木杏,“少女たちのハードボイルド”が特によかった.映画コラムなので口絵つきページもけっこうあり,いねいみやこ,“【ダメコレ】ダメ女子的ヒロイン辞典”がおもしろい.
 オススメの1冊.

エ58 喫茶モンスター,*別冊Café Monster vol. 05*(¥500)

 第21回文学フリマでのブースはエ58.
 各地の喫茶店を,注文したもの中心にイラスト化して紹介してくれる楽しい本.気に入って購入してもう何度めかになるのだが,毎回よくお店ごとの特徴をつかんでちがった感じに描けるなあっていうので感動している.だってさ,「スイートポテトシフォンケーキ」と「リッチミルクシフォンケーキ」とを別様に描けますか? 味はもちろんちがうわけだけど,見た目でぱっとわかるかというと,私には自信がない.それをちゃんと絵にして,どこが好きかを伝えてくれるのがすばらしい.
 特集のアンケート企画「ノマドするひと、しないひと。」は,私はノマド肯定派で,家に帰ってる場合じゃないときに喫茶店ノマドワークする.べつに切羽詰まっているわけではなくても,読むものが固まってきたら,家に帰ってよけいなことをするまえに早く取りかかりたいのだ.
 第19回文学フリマでの頒布物の私の感想はこちら. エ52 喫茶モンスター,*別冊Café Monster vol. 04*(¥400) - kugyoを埋葬する

カ05 建築雑誌ねもは,*建築雑誌ねもは 文学フリマ2015年春号 特集 モダニティの地-図*(¥500)

 第21回文学フリマでのブースはカ38.
 あっ横書きになっている! 冒頭の,吉本憲生,“近現代日本の都市空間におけるモダニティと日常の関係について”がいきなりすごい.なんとあの「大正モダン」とハーヴェイの「モダニティ」/「ポストモダニティ」とを,都市になにが起きたかという観点から比較している! 2015年現代と比べると,「モダニティ」を仮託する対象が異なっているわけだが,その異なりかた,つまりどういう対象に仮託するかが忘却されて新しいものに切り替わってしまうサイクルがあり,そのサイクルがどんどん早くなっているにもかかわらず支配的になっている,もっと長期スパンのサイクルも都市生活のなかにはあるのでは,という議論だった.
 ほか,地図・年表・図面といった建築の図式化のためのダイアグラムを,重ねることで立体化し,ひとつのストラクチャ,つまり建築にするというプロジェクトを行っている,鎌田友介へのインタビューがおもしろかった.あと,ソ連建築史を政治状況の観点から調査した,本田晃子,“社会主義都市論争と政治の力学”も興味深い.
 第19回文学フリマでの頒布物の私の感想はこちら. カ47 建築雑誌ねもは,*建築雑誌ねもは 文学フリマ2014年秋号 特集=建築とダイアグラム*(¥500) - kugyoを埋葬する

前代未聞の逆トリック!推理で犯人を暴く!

そんな日には僕は火鉢を足元に置いているが、そうすると、手はじっとうずくまったまま、挿絵入りの本を眺めているか、毛糸の玉で遊ぶ以外には何もしなくなる。すぐにわかったが、手は長時間じっとしていることができないのだ。
コルタサル、“手の休憩所”、1943=2014、寺尾訳、p.138)

手にも虚栄心があるのかと思って、指輪やブレスレットを棚に置いてこっそり反応を窺ったこともあった。何度か宝石を身につけようとしているように見えたこともあったが、手は、警戒心の強い蜘蛛のように、指で触れてみることもなく、周りからじろじろと眺め回すばかりだった。
コルタサル、“手の休憩所”、1943=2014、寺尾訳、p.137)

  • ユリイカ 詩と批評,第17巻第12号,1985.これは未来派特集.同じ流れで Motorcycle (Objekt)言葉のアヴァンギャルド―ダダと未来派の20世紀 (講談社現代新書)も.未来派というのは20世紀初頭にイタリアでマリネッティってやつが指導した芸術運動の一派で,機械化ばんざい! スピード感こそ20世紀だ! 過去の芸術をぶっこわせ! チュンチュンチュウウウウン!(ほんとうにこういうオノマトペを使った詩がある)みたいな連中なのだが,ファシストと大いに結託し,マリネッティの死とともに時代を謳歌しおえた.私はいまオートモービルの造形美の美術史的位置づけに関心があるので資料を集めたのだけど,未来派が着目したのはすごい速さで移動できる機械というよりも速度それじたいであり,またそれに伴う騒音といったものであったようだ.機械の流線型の美のようなものがクローズアップされるのはもう少しあとの時代のことなのかもしれない.
  • 屋根裏の狂女―ブロンテと共に,女性が作った文学作品だというだけでとんでもない侮蔑をかまされたのは,そう遠い過去の話ではない.女性には天使のイメージと妖怪のイメージとが同時に付されてきたというのが冒頭で例証される.

しかし、天使と妖怪を共に殺すという狼男のような行動をおこす前に、まずこういうイメージの起源と性質を理解するところから出発しなくてはならない。女性のための文学論を構築するためには、天使と妖怪殺戮の前に、殺す相手を研究することが必要なのである。
(ギルバート&グーバー、*屋根裏の狂女*、1979=1986、山田・薗田訳、p. 25)

  • 2312 太陽系動乱〈上〉 (創元SF文庫),主人公の「スワン」,こいつはアーティストなので,事件が起きると捜査とかのまえにモニュメントを作ろうとして止められる.作中でも名前だけ出てくるけど,マリーナ・アブラモヴィッチがやっているような自身の生命を危険にさらすタイプのパフォーマンスアートをやりたがっているのだ.あと,こいつが自分の頭部に入れてるAIの「ポーリーン」ってのが,AIのくせに,古くさい修辞学にうるさいばかりでなかなか役に立たなくて笑った.
  • 小説 TRIPPER (トリッパー) 2015年6/30号 創刊20周年記念号 [雑誌],宮内悠介,"法則"めあてで購入.ヴァン・ダインの二十則が実現している世界で,使用人がなんとかこの法則をかいくぐって主人を殺そうとする話.「オディを眠らせるにあたっては、睡眠薬入りの東坡肉を用いた。」のところでオチはこんなかなーと予想したが外れた,そういえば中国人ルールはノックスの十戒のほうだ.私なら13番の秘密結社ルールを使って逃れる気がする(疑われたら,その場で秘密結社に入団すれば,犯人ではないことになる).
  • 落下する緑―永見緋太郎の事件簿 (創元推理文庫),"揺れる黄色"にやられた,木管形而上学ジャズミステリーだ.若干“あらため”が足りない気もするけど,このトリックを成り立たせるのに必要な犯人の目立たない特殊能力がストーリー構成上も働いている.ただ,同時に盗まれた金(物取りに見せかけるために金を盗んでいる)は,道具(ライター)はあったし,燃やして処理できたと思うけど.
  • 短歌研究 2013年 10月号 [雑誌]はまえから気になっていた“ミステリと短歌”特集めあて.短歌はそのほとんどが「私」の視点を前提にしているので,それを逆手にとって叙述トリックを仕込んだ作品がある,というのがすごかった.
  • 人格転移の殺人 (講談社文庫),いま考えているトリックの前例になっているのでは!? と思ってあわてて確認したが,そんなことはなかった.よかった.たぶん,前代未聞の「推理が犯人を暴く」逆トリックになると思う.
  • Y列車の悲劇 (講談社文庫),集団消失もの.うーん,やっぱり1人が集団を消し去るタイプの話を考えたいな.清涼院流水が,WHOが人口のサバを読んでいたという大量消失トリックを小ネタとして挟んでいたことがあって,これはかなり理想に近いと思う.要するに,わずかな人数をおおぜいに見せかけておくことで,あとになってその差分が消えたように映る,というトリックだ.陰謀論めいた非現実さを薄めたヴァージョンとして,たとえばだが,1つの村に目撃者を案内するのだけど,その案内のしかたに巧妙なトリックがあって,村にはものすごい数の住民がいるように見えてしまう,しかし,その住民たちというのは,1人の同じ村人がちがうところに顔を出しているのを見間違えただけだった……というのはどうだろうか.
  • 奇談蒐集家 (創元推理文庫)とかもっとミステリなふたり 誰が疑問符を付けたか? (幻冬舎文庫)とか読んで不服だったんですけど,私むかしから太田忠司作品には満足できないところを感じるんだよなあ……あのですね,言っちゃあなんですが,乱歩奇譚 Game of Laplace(2015)みたいな不完全燃焼感を覚えるんですよ……
  • 国王陛下の新人スパイ (創元推理文庫),読んでいて胸がしめつけられる……マギー,ヒュー,そしてミスター・ミステリー,どれにも共感してしまうだけにね.それほどめざましいスパイ活動はないし,お話の筋は解説をチラっと見てだれもが思い浮かべるとおりのものだけど,コージー・ミステリーふうの表紙にだまされてはいけないよ……(あ,でも,模範的なゲイとしてのゲイ表象には不満がある)
  • ノー・ガンズ・ライフ 1 (ヤングジャンプコミックス),頭が銃になっているひとの話.しかしこれは1巻だけだとカタルシスに乏しい,チェーホフじゃないけど銃が出たら発射してほしいわけですよ,そこがあまり見栄えよく描かれていない.


最近借りた本のリスト.

アリストテレス倫理学入門 (岩波現代文庫)

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パッチワーク・ガール (イラストレイテッドSF)

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中世都市と暴力

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定本 黒衣の短歌史

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プリズムの瞳

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奇談蒐集家 (創元推理文庫)

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終着の浜辺 (創元SF文庫)

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国王陛下の新人スパイ (創元推理文庫)

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ユリイカ 詩と批評,第17巻第12号,1985.
明解言語学辞典

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いま、世界で読まれている105冊 2013 (eau bleu issue)

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女のからだ――フェミニズム以後 (岩波新書)

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群像 2013年 12月号 [雑誌]

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容疑者の夜行列車

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スティーヴ・フィーヴァー ポストヒューマンSF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

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落下する緑―永見緋太郎の事件簿 (創元推理文庫)

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Y列車の悲劇 (講談社文庫)

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中途半端な密室 (光文社文庫)

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ツミキズム (IDコミックス 百合姫コミックス)

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チェブラーシカ [DVD]

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Sync Future

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美しい芸術SFの世界

 世のなかにはアートミステリーというものがあります.アートを扱ったミステリーのことで,そこでは芸術作品が盗まれたり,芸術作品の制作者があばかれたり,芸術作品のなかに暗号が仕込まれていたりします.芸術の世界にはさまざまなしきたりや専門用語があり,それが日常とのギャップを作り出すのです.ギャップあるところ,それを利用したトリックあり.ミステリーがアートのちからを借りたがるゆえんです.
 ではSci-Fiの世界ではどうでしょうか.一見すると,芸術SFやアートSFというのはあまり作例が多くないように思えるかもしれません.というのも,芸術というのはどこか,SFが重んじる科学的精神と相容れないところがあるような気がするからです.制作はさておくとしても,とくに芸術鑑賞においてはそうです.絵画にちかよって定規を当てて消失点を探ってみたり,コンサート会場で指折り数えてbpmを調べてみたり,ダンサの骨格の緊張をレントゲン写真で撮影しようとしたりするのは,典型的な鑑賞とは言えそうにありません.芸術というのはもっとこう,霊性で味わう神秘的ななんかだ.そうですね?
 しかし,いくら神秘的なところがあるといっても,芸術は魔術とちがって現実にわれわれの行動や判断に影響を及ぼしています.われわれの現実の一側面であるそういう作用がエスカレートしたらどうなるか,ということを想像するのは,まさにSFの得意分野です.
 というわけで今回は,芸術が関係するSF作品をいくつかご紹介しましょう!

クレス,ダンシング・オン・エア

  • ナンシー・クレス,"ダンシング・オン・エア"(田中一江・訳,1993=2002).in: 山岸真(ed.),90年代SF傑作選 下,pp. 375-483(2002).
扱う芸術作品
バレエ
扱う問題
エンハンスメントと教育とのちがい,自己実現との関係

 バレリーナには怪我がつきものですが,それを減らし骨盤までも開脚のために変形させてしまう生体能力強化が勃興してきた時代をえがく中編です.「未加工」の「自然芸術」をよしとする「ニューヨーク・シティ・バレエ団」に属するプリマ「キャロライン」と,能力強化したダンサを支援するその母「ミズ・オルスン」との確執.バレエ・ダンサの連続殺人の取材をはじめた「スーザン」の娘「デボラ」も,高校卒業までに「ニューヨーク・シティ・バレエ団」で役を得ようとして,「スーザン」と衝突しています.取材のなかでしだいに「キャロライン」の突然の不調に迫っていく「スーザン」の視点,そして「キャロライン」の警護につけられた能力強化犬「エンジェル」の視点から,生体能力強化技術の行くすえが明らかにされていきます.
 バレエ演目の美というよりは,ダンサたちの自己実現と,そのためなら同意のうえのエンハンスメントはどこまで許されるのか,あるいは本人に同意がない場合に,それは教育によって将来の選択肢を狭めてしまうのとどこが違うのか,といった問題が主眼に置かれています.
 アンソロジーである90年代SF傑作選 下(2002)のほか,金子(ed.)の短編集 ベガーズ・イン・スペイン(2009)にも収録されています.

ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)

ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)

90年代SF傑作選〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

90年代SF傑作選〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

ヴァンス,月の蛾

扱う芸術作品
仮面,未来の小型楽器(ヒマーキン,ガンガ,ザチンコ,キヴ,ストラパン,ゴマパード)
扱う問題
儀礼としての伴奏

 「惑星シレーヌ」には,奇妙な礼節慣習があります.会話の際には,階級に応じて適切な小型楽器を使って伴奏をしないといけません.そして顔面をさらすことは非礼とされ,やはり社会的立場を反映した仮面をつけることが要求されるのです.そんな惑星にあたらしく領事代理として着任した「シッセル」は,この不慣れな礼節から生じるさまざまな障害に悩まされます.さらに,上司である「星際政策委員会執行部長」からは,着陸してくる犯罪者「アングマーク」を逮捕するよう指令がくだされるのです.タイトルにもある「月の蛾」をかぶった「シッセル」は,いちどは「アングマーク」を取り逃してしまいますが,この慣習を利用して,3人の要職者のうちだれかになりすました「アングマーク」を捕えようとします.

 シッセルは気のないようすでその仮面を検分した。材料はねずみ色の毛皮で、口の穴の両側に房状の毛が生え、ひたいには、一対の羽根に似た触覚が突き出ている。こめかみの横からは白いレースが垂れさがり、両眼の下には一連のピンクのひだがあって、悲しげであると同時に滑稽な効果を生み出している。
 シッセルはたずねた。「この仮面はある程度の威信を表しているんでしょうか?」
「いや、たいしたことはない」

 アンソロジーである20世紀SF3 1960年代 砂の檻(2001)のほか,酒井(ed.)の短編集 奇跡なす者たち(2011)にも収録されています.
 

20世紀SF〈3〉1960年代・砂の檻 (河出文庫)

20世紀SF〈3〉1960年代・砂の檻 (河出文庫)

ノードリイ,デモクリトゥスのヴァイオリン

  • G・デイヴィッド・ノードリイ,"デモクリトゥスのヴァイオリン"(小野田和子・訳,1999=2001).in: S-Fマガジン,第42巻12号,pp. 72-92(2001).
扱う芸術作品
ヴァイオリン
扱う問題
芸術理解は構成要素の理解にとどまるか

 マイクロテクノロジー・エンジニアリング専攻の「キム」は,還元主義を否定する音楽学教授「スティーヴンズ」に一泡吹かせて単位評価をAにあげ奨学金を確保すべく,「スティーヴンズ」の持つ名器ストラディバリウスを,分子的に複製しようとします.すりかえた分子的複製を演奏したことに「スティーヴンズ」がじぶんで気づかないのなら,本物の楽器の優越性はなくなり,構成要素の理解は芸術理解に無関係だとする主張への反論になるからです.
 このS-Fマガジン2001年12月号の特集は「音楽SFへの招待」で,ほかに3編の音楽SF短編が掲載されているほか,中野善夫による"音楽とともにある物語たち"(pp. 95-98)というブックガイドなども入っています.ブックガイドでは,「音楽家の人生」「通信手段としての音楽」「呪術的な力」「時空を越える通路」「世界を歪める力・世界を構築する力」「機械仕掛けの音楽」という観点から,それぞれ数本ずつ作品を紹介しています.

そのほか

 そのうち紹介していけたらなと思っているものもあります.初出順に.

宣伝

 手前味噌になりますが,『形而上学刑事』シリーズの2次創作であり,未来芸術×分析美学×SF×ミステリー×アクション×エステがテーマの「分析美学エステティシャン」シリーズもどうぞよろしくね!

言明されていない構成要素〔unarticulated constituents〕

 最近,発話の「言明されていない構成要素」(unarticulated constituents)というのに興味を持ったのですが,Braun, David, "Indexicals", The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Spring 2015 Edition), Edward N. Zalta (ed.), URL = <http://plato.stanford.edu/archives/spr2015/entries/indexicals/> にちょっとだけ説明があったので訳しました.

## 2 どういう表現が指標詞なのか?

### 2.2 厳格な文脈主義,隠れた指標詞つき不変主義,言明されていない構成要素つき不変主義

 ある表現についての文脈主義的な説明というのは,隠れた指標詞を仮定した不変主義とは区別されるべきだ.後者のたぐいの立場では,その表現それじたいは文脈非鋭敏的であるけれども,それが生起するときには(しばしば)発声されない文脈鋭敏的な表現の生起を伴うのだ,となる.こういう文脈鋭敏的な表現は,ときに指標詞だとか,代名詞だとか,変項とかだと言われたり,それに似たものだと言われたりする.例として,段階的形容詞「豊かだ」を考えよう.厳格に文脈主義的な説明だと,この形容詞は単項述語であり,その内容はどの文脈でも単項性質である,ということになる.ある文脈だと,「豊かだ」の内容は(おおまかに言って)哲学者として豊かだという性質なのだが,べつの文脈では,大企業の最高経営責任者として豊かだという性質が内容になる.一方,隠れた指標詞を入れた不変主義で「豊かだ」を説明すると,「豊かだ」の内容は文脈ごとに変わるようなものではないことになる.この内容は,どの文脈でも,同一の2項関係であり,おおまかに言えば「として豊かだ」というようなもので,あるひとと(おおまかに言って)ある性質とのあいだにありうる関係,ということになるのだ.ときには,たとえば「ジョージは哲学者として豊かだ」のように,述語「豊かだ」が2変数(言語的変数)の述語として文に現れることもある.だが,「ジョージは豊かだ」のような場合は,第2の発声される変数がないけれども,述語「豊かだ」は,代名詞に似た,文脈鋭敏的表現の発声されない生起を伴っている.隠れた指標詞の内容は,ある文脈では哲学者であるという性質になっていて,べつの文脈では大企業の最高経営責任者であるという性質になっているのだ.Partee (1989), Condoravdi and Gawron (1996), Stanley and Szabo 2000を見よ.
 「豊かだ」の説明の3つめのタイプは,言明されていない構成要素のある不変主義だ(Perry 2000, Chapter 10).この手の立場でも,「豊かだ」は2項述語で,どの文脈でもその内容は先に述べたような「として豊かだ」という2項関係なのだが,ただし隠れた指標詞を伴うわけではない.したがって,「ジョージは豊かだ」という文の内容は,どの文脈でも,完全に命題的だというわけではないことになる.ただし,このたぐいの立場のうちいくつかにおいては,この文を発話した話者は典型的には,ジョージは哲学者として豊かだ,のような完全な命題を発話していることになる.議論については,Bach 1994, 2005を見よ.

コメント

 これだけだとちょっとだけすぎて,なんのことだかよくわからないと思うのですが,要するにこうです——ふつうあなたがたは主張というのを,文脈なり指標詞の指示対象なりを決めてやればそれが主張するところの命題がなんであるかが定まるものだ,と思っておいででしょうけれども,じつはそうではなく,われわれは不完全命題を主張しているのだ,というのです.
 これの実際の使いみちとしては,SEPの命題的態度報告のパズルの文脈主義的説明があがっています*1.こちらのパズルをかいつまんで言うと,

  1. ロイス*2は,スーパーマンは強いと信じている.
  2. ロイスは,クラーク・ケント*3は強いと信じている.

という2つの命題は真偽がちがうだろうが,それをどうやって説明するか,というものです.言明されていない構成要素を使う場合の解決は,

  • (1)は隠れた言明されていない構成要素として,ロイがスーパーマンについてスーパーマン的思考をしていることを暗黙のうちに指示しており,
  • (2)は隠れた言明されていない構成要素として,ロイがスーパーマンについてクラーク・ケント的思考をしていることを暗黙のうちに指示しており,

ロイはスーパーマンについてスーパーマン的思考をしたときにだけ,スーパーマンは強いと信じているので,(1)と(2)とで真偽が異なることになるのだ,というわけです.
 でもこの解決ってあやしくないか? と思うのももっともで,たとえばこの解決では述語「信じる」が,信じるひと・信じる内容・ナントカ的思考の3つの項をとる3項述語になってしまうけどいいの? これって意味論的説明になってるの? など,疑問点はいくつもありますよね.そもそも言明されていない構成要素などというものが意味論的にあるのかどうかについても,論争が続いているようで,今後も追いかけたい分野です.
 日本語の最近の文献だと,この本の9章が命題態度の章です.

意味ってなに?: 形式意味論入門

意味ってなに?: 形式意味論入門

追記

 ありがたくもご指摘をいただき,修正しました.

*1:文脈主義的説明としてあがっていますが,言明されていない構成要素を使う立場は文脈主義ではないように,私には思えます,いまのところ

*2:クラーク・ケントはロイスに好意を抱いていて,ロイスはスーパーマンに関心がある.

*3:スーパーマンに変身するひと.つまり同一人物

ライディングアーギュメント・スタンバイ

 次作が「モトクロスレースで,バイクに乗ったまま隣のレーサーと議論する」という話を予定しているので,先月のテーマとしてSFミステリー・競馬ミステリー・珈琲ミステリーを借りたり買ったりしたのだけど,まだ読み切れていない.このへんの制御ができなくなってしまった.がむしゃらに読みます.
 SFミステリーは スティーヴ・フィーヴァー ポストヒューマンSF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)無伴奏ソナタ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF カ 1-26)ウロボロスの波動 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)バービーはなぜ殺される (創元SF文庫)不確定世界の探偵物語 (創元SF文庫)SF九つの犯罪 (新潮文庫 ア 6-1)銃、ときどき音楽90年代SF傑作選〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)恐怖省 (1982年) (集英社文庫) などが該当するので,よかったらどうぞ.

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都市の環境美学を題材にしたSF小説を書きました

 2014年に“分析美学エステティシャン 抽象物としての芸術作品”というSFミステリー小説を公開したのですが,そのつづきを書きました.“分析美学エステティシャン 同一都市”というタイトルです.

https://drive.google.com/file/d/0B747RMSSVeGvVThhX0FjSnhGT2c/view

 前作(ダウンロードリンク)では,エステで働く分析美学者のところに,哲学好きのロボットとその相棒とが事件を持ちこんでくる,という筋で,芸術作品の存在論的地位をネタにしたものでしたが,今作( ダウンロードリンク)では,その分析美学者が学生だったころの事件で,2つで1つの都市で暗躍する,悪の哲学者の陰謀と対決します.ネタは都市の環境美学です.

 2月ごろ,美学の勉強会の席で,「都市の同一性」という話題が脱線としてあがり,これはおもしろいと思ったので小説に仕立てようと思ったのが,この作品の書きはじめでした.もともとは,こちらはもっと短くする予定で,それとはべつに,前作から直接につづく続編を準備していたのですが,そこに登場予定の人物を考えているうちに,いったん過去の話を書いてもいいんじゃないか,という横着を思いついてしまい,こちらに盛りこんでみたところ,あれよあれよと言うまに58000字弱の中編になってしまいました.もっと手短に論証ができるのではないかと思うのですが,これについては今後の課題としたく思います.
 論証といえば,このシリーズのささやかな目標は,哲学者が論証をしているさまをいきいきと描く,というところにあります.2次創作の元ネタとなっている,高田,“形而上学刑事”*1シリーズは,形而上学を扱っていながら衒学的なところが少しもなく,それどころか,哲学的にも難問として扱われている問題が毎回登場して,論文でなく小説だからこその方法で解決する,という筋立てをとっている魅力の作品ですが,哲学的問題それじたいやその小説のなかの事件への適用,という点が非常に見事で,それをスマートに解決していく主人公にもひかれるものがあります.ただ,名探偵とちがって現実の哲学者たちは,手がかりがそろうと一瞬に真相を見抜くというのではなく,むしろ行きつ戻りつしながら議論しあって真相に近づいていく,というところがあるように思います.現実の哲学の議論においては,そのさまじたいがとてもスリリングなドラマになっていると私は思うのですが,もちろんそれは論文から読み取れるものではなく,研究会や学会などで垣間見るほかありません.なんとかそれを紙上で再現できないか? 議論や説明のおもしろさを体感してもらえないだろうか? というのが,この2次創作作品の目指すところとなりました.
 
 もともと,都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)もうひとつの街 といった「ひとつの場所にふたつの異なる都市」が出てくる小説を読んでいたこともあり,デュプリカトゥス市とレプリカトゥス市という,「ふたつの場所にひとつの同じ都市」を扱うということじたいはすぐに決まりました.しかし,都市に生じる美学的問題というのを考えるのが難儀でした.まず文献がほとんど見つからない.参考文献でも書いたとおり,この手の「環境」を美学的対象とするような議論は環境美学というのですが,都市環境の美学で探して出てくるのは都市のなかの芸術作品とか建築美とかの話題であり,都市そのものを鑑賞するような議論はないようです.おそらくもっとも近いのは景観論で,これについては 失われた景観―戦後日本が築いたもの (PHP新書)などを手始めに調べたのですが,都市景観については,美学ではまだあまり研究がすすんでいないのかもしれません.識者の皆様のご指摘を待ちたいところです.「パリは美しい」「リオデジャネイロには繊細な魅力がある」みたいな美的判断,ひとびとはひんぱんに下していると思うので.手に入ったなかでは,

  • Haapala, A., "On the Aesthetics of the Everyday: Familiarity, Strangeness and the Meaning of Place", 2005, in: Light, A. and Smith, M. (eds.), The Aesthetics of Everyday Life, 2005.

がそれに近かった.

*1:新作も出ている! http://www.amazon.co.jp/dp/B00PHFLGLU

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短歌の作り方、教えてください

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住むための都市

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料理と科学のおいしい出会い: 分子調理が食の常識を変える (DOJIN選書)

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儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

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一瞬の光 (ミステリアス・プレス文庫)

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時を盗む者 (ミステリアス・プレス文庫)

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天才たちの値段―美術探偵・神永美有 (文春文庫)

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パラドックス実践 雄弁学園の教師たち

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ナイトランド 5号 (春2013)

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  • 作者: 朝松健,ローレル・ハルバニイ,ブライアン・M・サモンズ,グリン・バーラス,エリザベス・ベ,サラ・モネット,アンジェラ・スラッタ,ロバート・ブロック,石神茉莉,小松左京,山野辺若,YOUCHAN,?木桜子,佐竹美保,藤原ヨウコウ,松山ゆう,上院芭郎,槻城ゆう子
  • 出版社/メーカー: トライデント・ハウス
  • 発売日: 2013
  • メディア: 雑誌
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全滅領域 (サザーン・リーチ1)

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星を継ぐもの (創元SF文庫)

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ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)

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ミステリマガジン 2012年 10月号 [雑誌]

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快楽の動詞 (文春文庫)

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ULTRASEVEN X

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ULTRASEVEN X Vol.1 プレミアム・エディション [DVD]

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リメイク 1 (マッグガーデンコミックス EDENシリーズ)

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フミキリ、君の手、桜道。 (マーガレットコミックス)

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竜の学校は山の上 九井諒子作品集

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思春期生命体ベガ

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最低女神 (IDコミックス 百合姫コミックス)

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失われた夜の歴史

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失われた景観―戦後日本が築いたもの (PHP新書)

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場所の現象学―没場所性を越えて

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SF作法覚え書―あなたもSF作家になれる (Key library)

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世界のどこでも生き残る 異常気象サバイバル術

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奥の部屋 (魔法の本棚)

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もうひとつの街

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哲学教授を辞めて探偵になった男〈上〉

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量子怪盗 (新★ハヤカワ・SF・シリーズ)

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エドワード・D.ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ

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SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

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